読み切り短編集
二番目でもいいから
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俺の言ったことに少しは安心したのか、俺の左手首を掴む豪太の手の力がゆっくりと緩んだ。
見た目でもわかるぐらいにホッと溜め息をつき、それから豪太の視線が俺の真正面で止まる。

「…充。眼鏡は?」
「ん、ああ。ボールにぶっ飛ばされてレンズが割れちゃってさ。保健室から寮までは春原先生のスペアを借りたんだけど。度が合わないから、さっき部屋でコンタクトを入れたんだ」

そう言い終わるか終わらないかのタイミングで、

「充。おまえ、明日学校休め」

豪太から命令される。
あまりに唐突すぎて理由を聞けないでいると、チッと小さく舌打ちした豪太に真正面からぎゅっと抱きしめられた。


直接地肌から伝わる体温が心地よくて、思わず豪太の背中に腕を回す。

「…豪太?」
「おまえさ。ほんと、頼むから自覚してくれ」

ズボンを履いただけで上半身裸の豪太は濡れた前髪を掻き上げ、今度ははっきりと聞こえるように溜め息を一つつくと俺の体を引き離した。

「おまえさ。何度も言うけど自分の可愛さをわかってんのか?」

離れていった豪太は少し怖い顔をして、いつものようにそんなことを言ってくる。
豪太はいつもそう言うけど、俺は自分が可愛いと言われることには違和感を覚えて、そう言われるたびになんとも言えず複雑な気分になる。



確かに俺の顔はある程度は整っているのかも知れないけれど、それは豪太や生徒会執行部メンバーなんかに言えるようなイケメン、つまりは男前の類(たぐい)じゃない。
元アイドル候補生だった母さん譲りの女顔で、おそらくは豪太が言うようにどちらかと言えば可愛いとか美人だとか言われるに相応しい顔をしてはいるんだろう。

子供の頃はそれで女子からは反感を買い、男子からは男女(おとこおんな)だといじめられた。
それが高校生になってこの学校に来て一変、どうやら一部の生徒にモテる存在になってしまったらしい。

「豪太。ご飯……」
「あとでいい」

豪太から香るボディーソープとシャンプーのにおいが不意に鼻孔をつき、再び腕を強く引かれた。



壁掛け時計の針は夜の9時を指している。
室温は23℃前後の快適に過ごせる温度に保たれているけど、今夜は冷え込みが激しそうだ。

「…あ、んっ」

豪太に激しく抱かれながら、豪太が取った行動の意味を考えてみる。
以前にも眼鏡のレンズを割ってしまいコンタクトで登校しようとしたことがあって、その時もさっきみたいに豪太からお説教を喰らったっけ。

Bkm
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