読み切り短編集
二番目でもいいから
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両親が子供の頃に離婚した母子家庭の一人っ子なだけあって、俺は子供の頃からちょっとした間食は自分で作って食べていた。
それから、この学校に入学して寮生活を始めて自炊するようになり、一通りの基本的なメニューは作れるようになる。

「……と、こんなもんかな」

セレブ仕様のレストランじゃなく学食のような庶民的な食堂も生活区内にはあるにはあるけど、自炊の方が食費も安く上がる。
庶民の代表のような一般家庭育ちの俺は食費もばかにならなくて、自然の流れで今に至る。

豪太の分も作るようになったのも自然の流れだった。
豪太と同室になった初めての夕食を自炊するのに豪太の分も用意したのがきっかけで、それから毎日俺が豪太の分も用意している。

豪太の分も作ったのは自分だけが夕食を取るのに気が引けたからで、それ以外には特に理由らしい理由はなかったが、豪太は俺の作った夕飯を殊(こと)の外(ほか)気に入ってくれた。
今思えば料理ができるから豪太に告られたような気がしてくるぐらいで、きっかけとしては俺の料理だけが目当てのようで複雑なんだけど。


和食に合う皿に完成したものをそれなりに豪華な料理に見えるように盛り付けて、ダイニングテーブルの上に並べた。
入浴時間が長めの豪太はまだ俺に気付いていないのか、時折シャワーの音が聞こえる。

使った調理器具を洗う時に包帯を濡らさないようにすることが面倒だったが、怪我自体も料理をするには特に支障はなかった。
全てを並び終えて一息ついていたら、

「なんだ、充。帰ってたのか」

豪太の声が背後から聞こえて、振り返った瞬間、

「…ちょ、充。おま、これっ」

包帯を巻いた左手を豪太に強く引かれた。



きっと、豪太は咄嗟のことで気が動転したんだと思う。

「――っっ。豪太、痛い」
「あっ、わり……」

怪我自体はもう痛くも痒くもなかったが、患部を強く掴まれて軽い痛みが走った。

「…誰にやられた」

そう、豪太に真剣な顔で詰め寄られて、

「ちがっ、これは割れたガラスで切っただけで」

慌てて否定する。


豪太と付き合うにあたり、二人の関係を秘密にしているのは、表向きには理由がある。
その一つが俺が怪我することに関係してくることもあるから、豪太は真剣なんだとわかる。

「…ほんとか?」
「うん。図書室で読書してたらハンドボールが飛び込んできてさ」
「…ハンドボール?」
「あ、いや」

思わず中川のことまで話しそうになって、俺は混乱を避けるために適当にごまかした。

Bkm
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