読み切り短編集
二番目でもいいから
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このカードはクレジットカードにもなっていて、学園内の全ての買い物の支払いと自室の施錠がこのカード一枚でできるようになっている。
差し込んですぐに小さく『カチャ』と音がして、セキュリティが解かれた。
靴を脱ぐのももどかしく、
「豪太、ごめん。遅くなった!」
半ば叫びながら二人の共同スペースでもあるリビングに足を向ける。
いつもなら食後にソファーにくつろいでテレビを見ているその場所に、豪太の姿はなかった。
「…豪太?」
一瞬、わけのわからない不安にかられる。
すぐに微かに聞こえるシャワーの音に気付いて、ホッと胸を撫で下ろしたが。
そんなこと、今まで一度もあったことはないのに。
部屋に豪太がいないとしたら、夕飯を食べにレストランにでも行っているだけだろうに。
ふと、豪太がとてもモテることを思い出した。
それから、豪太と俺の関係は俺たち以外の誰も知らないということも。
それが何を意味するのか、不意にその答えが脳裏に浮かんで不安の種が膨らんだ。
今にもそれが芽を出してしまいそうで、その考えを振り払うように頭を振ってキッチンへと向かう。
「あ……、買い物」
冷蔵庫を覗いて、学校からの帰りに買い物する予定だったことも思い出した。
冷蔵庫の中のもので夕食を用意するとなると、出来合いのものしか作れそうもない。
不安の種は頭を振ったぐらいでは消えてはくれないけど、少なくとも献立を考えたり料理している間はそれを忘れていられるだろう。
出来合いのものでも一手間加えることでそれなりのものができるはずだ。
今朝考えていたメニューは諦めて、夕食は簡単な和食にすることにした。
普段自宅では豪勢な料理を食べることが多いからか、豪太は意外に一般的な庶民が食べているような普通の和食メニューが好きだ。
明日の朝の味噌汁の具として取り分けておいた木綿豆腐は下ろし生姜(しょうが)を添えて冷や奴として出して、ごぼうやにんじん、レンコンなんかの余った野菜くずを炒めて簡単なきんぴらにする。これで二品。
それから小松菜をおひたしにして、さっきの野菜くずにキャベツや白菜を混ぜて即席漬けに。
鶏卵に和風だしを混ぜて焼いただし巻き卵、それにインスタント味噌汁を添えれば、残りものから作ったとは思えない夕食メニューの完成だ。
時間もそんなに掛からなくて、豪太が風呂から上がるまでになんとか用意することができた。
Bkm
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