読み切り短編集
二番目でもいいから
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「や、先生の気のせいっすよ。それより早く包帯」
「あ、それは僕が……」
「わざわざ先生の手をわずらわせなくとも俺がやりますって」

そんなまるでコントのようなやり取りが目の前で繰り広げられていた。
ここで『じゃあ俺が』と手を挙げたら『どうぞどうぞ』と自分でやらせてくれるんだろうか。

そんな馬鹿なことを考えて苦笑う。
治療をしてくれるのを待つより自分でする方が早いような気がして、俺は二人に気付かれないように小さく溜め息をついた。



治療に思い掛けず時間を取られ、寮に戻ったのは夜の8時すぎ。
いつもなら部活が終わった豪太も帰ってる頃で、しきりに平謝りしつつ部屋まで送るよと迫ってくる中川をなんとか引きはがして自室へと急ぐ。

こじんまりと効率良く纏まっている学校エリアとは違い、生活エリアは無駄にだだっ広い。
生徒に割り当てられる部屋はセレブ御用達といった感じで、一応一般寮は庶民レベルの2LDKの部屋が二人に一つ割り当てられて、エスカレーター組の特待生なんかは更に広い一人部屋が与えられている。

それが生徒全員分あるんだから寮内の移動だけで大変で、それでなくとも生活エリアはちょっとした街のように生活するための設備が充実している。
一般寮棟、二棟目一階の廊下を突き当たりまで突っ切って、一階に待機していたエレベーターに乗り込んだ。



「…豪太、待ってるかな」

そう言えば豪太に遅くなると連絡を入れていないことを不意に思い出し、エレベーターの中にいながら駆け出したい衝動にかられる。
観音開きのドアが開くのももどかしく、エレベーターを降りるとすぐに駆け出した。

左手の甲の傷が少しだけ深くて、左手には白い包帯が巻かれている。
ボールがぶつかった箇所は軽い打撲で、ガラス片が掠めた頬の傷には大きな四角い絆創膏を貼ってもらった。

それより問題はレンズが割れた眼鏡で、これは一応は春原先生のスペアのものを借りてきた。
同じ近視でも先生の方が進み具合が弱いから、俺が掛けるとなんとか障害物だけは判別できる程度の曖昧な視界で、正直、走るのは少し怖い。
それでもちゃんと歩けないことを理由に中川に押し切られるのも嫌だったし、ご飯も食べずに豪太が俺を待っていると思うと駆け出さずにはいられなかった。


(早く帰って豪太のために夕食を作らなきゃ)

エレベーターから降りて廊下を駆け出した一番奥の部屋。
急いでポケットからセキュリティーカードを取り出して、所定の場所に差し込んだ。

Bkm
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