読み切り短編集
二番目でもいいから
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中川に腕を引かれたまま飛び出した廊下。
こんな風に周りから注目されるのは、本当は好きじゃない。
汚れたハンドボールのユニフォーム姿という目立つ格好の中川に半ば引きずられているからか、尋常じゃないほどの好奇な視線を浴びてしまっている。

「ごめん。ほんと、かすり傷だから大丈夫だって」

だけど眼鏡のレンズは割れてしまったし、こうやって誰かに手を引かれでもしなきゃちゃんと歩けない。

「大丈夫くない。いいから早く!」

俺の肘ら辺をしっかり掴んだ中川はそう言って、

「すのっち、急患!」

一階の通用口のすぐ手前にある保健室のドアを勢いよく開けた。



中川は俺と同じ外部入学組で、去年も同じクラスだった。
うちの学校のクラス割りは成績順で決められていて、余程のことがない限りは三年間同じ顔触れになる。
クラスメートは成績の上下数人ずつがB組とD組の生徒と入れ代わっただけの顔触れ。
クラスのほぼ平均点を取っている俺は、おそらくは来年もC組になるだろう。

中川の成績も俺と同じようなもので、多分来年も俺と同じC組になるはずだ。

中川はいかにもスポーツマンらしいちょっとやんちゃな感じのごく一般的な容姿の男で、短めの黒髪は少しくせっ毛であちこちの方向に向かって好き勝手に跳ねている。

「なんですか騒がしい。中川くん、また怪我……、って。あれ?」

中川の声に養護教員で、正規の医師免許を持った校医でもある春原(すのはら)先生がゆっくりとこちらを振り返る。
優しい目を一瞬見開いて、

「えっと……、2年C組の皆月くんだよね。どうしたの」

そう言うと先生は、俺の方に手を伸ばしてきた。



春原先生は二十代後半のまだ若い先生で、生徒に絶大な人気がある。
優しくて涼しげな目を細めて笑うその顔はどちらかと言えば美人とも言えるタイプのイケメンで、男だらけのうちの学校の生徒にもウケがいいらしい。

「え、えっと。割れた……」「俺が投げたボールが窓を突き破って、割れたガラス片で怪我をしたみたいでさ」

…なんだろ、今の変な感じ。

伸ばした手で俺の頬をするりと撫で上げた春原先生の前に立ち塞がって、俺と先生の会話を遮断した中川。
中川はしきりに俺と先生とのやり取りの間に割って入っては、

「…ねえ、中川くん。すまないが、邪魔しないでくれるかな」

治療の邪魔をしようとする。

Bkm
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