読み切り短編集
二番目でもいいから
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そんな風に人ごとのように思ってしまうのは、自分の行動や思考に自信が持てないからだろうか。
豪太と付き合うようになってからの俺は、自分で自分のことがわからなくなった。

親のことをとやかく言うつもりはないけど、うちの両親は俺が生まれてすぐに離婚している。
女手一つで育てられた一人っ子の俺は子供の頃から何も期待して来なかったし、母さん以外から与えられる愛も知らない。

結婚という強い絆で結ばれたうちの両親のように普通の男女のカップルでさえ簡単に別れてしまうんだから、その見えない鎖さえも持たない男の俺が、ずっと豪太を繋ぎ止めておけるはずがない。

「はあ……」

窓際の席に座り、溜め息を一つ。
ハンドボール部の練習が終わる頃までここで読書をしながらこっそり練習風景を眺めて、豪太が帰って来る時間には寮に戻って夕食の準備をしておくのも俺の日課の一つ。
ぱたんとわざと音をたてて読んでいた本を閉じた瞬間、

(―――パリン!)

何かが窓越しに飛んできて、窓ガラスを突き破り、俺が掛けていた眼鏡を吹き飛ばした。



(……え?)

一瞬、自分の身に何が起こったのかわからなかった。
一瞬にして霞(かす)んだ視界の中、微かに見えたものは、粉々に割れたガラスの破片と真っ赤な血が付着した他のものより少しだけ大きめのガラス片。

「…うわ、またやっちゃったよ。すみませーん……、ってかおまえ。大丈夫かよ!」
「…え?」
「血だよ。血が出てる!」

俺の真横の窓じゃなく、一つ向こうの窓を乗り越えて入って来たやつが俺を見てそう言った。
どうやら図書室に飛び込んで来たボールが窓を突き破って俺の眼鏡を吹っ飛ばし、砕け散った窓ガラスの破片が俺の頬を掠(かす)めたらしい。

「や、たぶん大丈夫。かすり傷……」「大丈夫なわけあるかっ!」

眼鏡を掛けてないから顔ははっきりとは見えないけれど、この声には聞き覚えがある。
多分、俺のクラスメートで豪太と同じハンドボール部員の中川だ。

「ちょ、とにかく保健室!」

中川は俺の荷物と吹き飛んだ眼鏡を引っつかみ、中川に引きずられるように俺たちは図書室を後にした。

Bkm
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