読み切り短編集
Life is beautiful
(2/9)
昼下がり
「え、あ。なんで……」
ど、どうしよう。
なんで先輩がここに来るんだろう。
恥ずかしすぎて今すぐ死ねるし!
『奥居先輩。俺、先輩のことが好きです!』
先輩が卒業するまで言わないつもりだったのに、暴走する想いを止められなかった。
先輩に初めて会ったのは中三の春。
兄貴の応援で見に行った春高バレーの地方大会で、一年生ながら途中、少しだけ試合に出ていた先輩を見た。
体が小柄だったからリベロだと思っていたらセッターで、しかも、その少し小さな魔法の手から繰り出される多種多様なトスに魅了されて、その場で迷っていた進路を即決してしまった。
そんで、必死に勉強をして、今の高校に受かってすぐにバレー部に入った。
実は、俺は中学まではバスケをやっていて、バレーボールの経験は、ほとんどなかったんだよね。
行き当たりばったりな性格を卒業してしまった兄貴に呆れられたけど、暴走し始めた心はもう止まらない。
先輩が上げてくれるボールに食らいついているうちにどうにかなるようになって、いつの間にかバレーが先輩と同じくらい好きになっていた。
「いらねえの?」
「え、なにが?」
「返事」
返事……?
「ええっ!」
うわっ、どうしよ。
一方的に先輩に告っといて、そう言えば、返事をもらうことは全く考えてなかった。
「先輩から返事をもらうとか、そんなおこがましいっっ!」
慌てて意味不明な言葉で言い繕(つくろ)ったら、
「ぶっ。なんだよそれ」
そう言って、目の前の先輩は小さく吹き出した。
うわー、どうしよ。
めちゃくちゃかっこいい。
身長は遥かに俺の方がでかいけど、決して普段の先輩は『かわいい』じゃない。
確かに希少価値(滅多に笑わない)な笑顔は可愛いし、どっちかっつと女の子のような綺麗な顔もしてるけど。
全くド素人の俺に手取り足取りバレーを教えてくれる先輩の鬼コーチっぷりと言ったらもう、M体質でなくともキュンとくるぐらいのかっこよさで。
そんな先輩に好かれているとか、しかも恋愛の意味でとか有り得ないこともわかってるから、返事も期待してなかった。
絶対、『俺も』な展開はないだろうから、返事もいらないし……。
なんて考えてたら、
「俺も」
目の前の先輩がそう言った。
「……へ?」
…来たこれ。
なんのデジャビュ?
夢、つか、俺の願望にも『俺も』な展開はなかった。
しかも、
「俺も好きだっつってんの」
って。
「…かわいい後輩として?」
思い切って聞いてみたら、
「ぶっ。かわいいとか自分で言うか」
笑われた。
「おまえと同じ意味だよ」
なんて有り得ないし。
全く予想していなかった展開に、どっかり座ったパイプ椅子に縫い付けられたように固まってしまった。
ねえ、先輩。
これって俺の都合のいい夢だよね?
夢ならお願い、覚めないで。
そう、強く願った昼下がり。
2011年1月
Bkm
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