読み切り短編集
Life is beautiful
(8/9)

夏祭り


あーあ、また拗ねた。
でっかいワンコがそんな恨めしげな顔をしても、全く可愛くないっつの。

ことの始まりはあいつからのデートの誘いで、近所の夏祭りに一緒に行こうというものだった。

「却下」

そう一刀両断してやると、

「えーっ。お祭りの最後の打ち上げ花火を先輩と一緒に見たかったのに」

なんて、口を尖らせながらぶーぶー言ってくる。


俺は別にワンコと一緒でも構わないけど、よく考えてみれば、男が二人だけで祭りに繰り出すのもヘンな話だ。
数人でわいわいやるならまだしも、男二人がナンパ目的ならわかるけど。

目の前のワンコはすっかりしょげてしまって、ピンと立った耳もしっぽも元気をなくしている。

その、なんだ。
別に一緒に行ってやらないこともないけど、あの人込みじゃ手さえ繋げないじゃん。

あんな人目にさらされるとこ、人の目が気になって楽しめないに決まってる。

そんなわけで、打ち上げ花火が始まる時間帯に、俺は自宅でふて寝しているであろうワンコを呼び出した。


「遅い」

息を切らしながら、こちらに向かってくるワンコ。
いつものだらし無いTシャツにジーパンのいで立ちで、

「先輩、そのかっこ……」

俺の格好を見て目を丸くする。

「花火と言ったら浴衣だろ」

そう言った瞬間、背後でドンと鈍い爆発音。


この場所は少し小高い場所にある小さな公園で、今まさに祭りの真っ最中だけあって人出はない。
祭り会場とは少し離れているけどここからは、祭り会場以上に綺麗な花火が見える。

「ほら」

ぽかんと口を開けたままのワンコの手を引いて、一番花火がよく見える場所へ。

「…――――」
「え、先輩。なんて言っ……、聞こえな……」

結局、俺も好きなやつと一緒に花火を見たかったって話だよ。


2011年7月

Bkm
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