俺様キューピッド
俺様キューピッド
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離された手が淋しくて、思わず先輩のシャツの裾を掴んだ。
「…ハル?」
「あ、えっと……」
先輩、あの頃は素直になれなかったって言った。
ということは毎日、意地悪されてはいたけど、僕は、先輩に嫌われてはいなかったことになるのかな。
「先輩、僕のこと……」
「ん?」
「…あっ。いえっ。なんでもないです」
思わず聞いてしまうとこだった。
僕のこと『嫌いじゃなかったんですか』って。
これって、言い換えると『好きだったんですか』ってことになる。
どうしよう。
いろいろ子供の頃のことを思い出して、ますます先輩が好きになってしまった。
先輩は僕のキューピッドで、龍平と僕をくっつけたがっているのに。
「…素直になれなかった、か」
そう独りごちた先輩の言葉に、どきりと胸が跳ねる。
辺りはすっかり夕闇に包まれ、夕日は地平線の向こうに沈んでしまった。
夕日の代わりにぽっかりと顔を出した月が、僕と先輩の青白く長い影を道端に残す。
小さくてちょっぴり太っちょの僕の影と、すらりと長身の先輩の影。
先輩のシャツの裾から手を離して、影でそっと手を繋いだ。
それに気付いたのかどうだか、伸びてきた先輩の手がもう一度、僕の手を掴む。
「…素直になった方がいいか」
先輩はそう独りごちて、
「ハル。…いや、晴陽」
「あ、はいっ」
僕の名前を呼ぶと不意に、
「キューピッド、降りてもいいか?」
そんなことを言ってきた。
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