俺様キューピッド
俺様キューピッド

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小さな僕が泣いている。
そばにいるのは、お姉ちゃん。

『ほら、晴陽。泣かれんの』
『――っっ。ほなって、がっくんが…っっ』
『なによ。また意地悪されたん?』
『りゅ、りゅうくんのことは仲間にはめたげたのに、ぼくだけはみご(仲間外れ)にするんやもん』

龍平は、よくその子と遊んでた気がするけど、僕はなかなか仲間に入れてもらえなかった。

「…意地悪ながっくん?」

思わず先輩のことをそう呼んでしまって、慌てて口をつぐむ。
そしたら、

「意地悪は余計だ」

そう苦笑った先輩に、軽く頭を小突かれた。


そうだ。思い出した。

あの夏、東京から一つ年上の男の子が近所のおばあちゃんの家に泊まりに来てて、僕らは毎日、一緒に遊んだ。
姉ちゃんと龍平の後をずっと追い掛けてた僕は、朝のラジオ体操からずっと行動を一緒にしていた。

鬼ごっこをしたら僕はすぐに捕まるし、駆けっこをしたら、勝負にならないし。
当時、近所の子供たちの間で『あぶらご』制度というのがあって、僕はずっとその『あぶらご』で。

この『あぶらご』というのは鬼ごっこで捕まっても鬼にはならないし、ドッジボールでボールをぶつけらてもアウトにならない特別な存在で、こうすることで小さな子や鈍臭い子も一緒に仲良く遊ぶことができるんだけど。

東京から来たがっくんは、その特別扱いの制度が気に入らなかったんだと思う。
だから、がっくんから仲間外れにされた僕はいつも泣かされていて、僕の中で『意地悪ながっくん』って方程式が出来上がっていた。


「やっと思い出したか」

先輩はホッとしたようにそう言うと、繋いでいた手を離した。

「あ、えと。ご、ごめんなさい」
「いや、意地悪した俺が悪い」

人間は、嫌な記憶は消してしまう習性がある。
小さかった僕は無意識に、その意地悪されていた記憶を消していたんだ。

唯一、覚えていたのは、意地悪された後に手を引いて家まで送ってくれた記憶。
ごめんねの言葉はなかったけど、ぎゅっと繋いだ手が大きくて暖かくて、小さな僕はそれがとても嬉しかった。

外で夕立に遭った時には、小さな僕は、泣きながらがっくんにしがみついていたっけ。
ぎゅっと抱きしめてくれた体が暖かくて、がっくんの心音を聞いたら不思議と心が落ち着いた。


花壇で先輩に出会ったあの日。
不意の雷で抱きしめてくれた時に既視感に胸が跳ねたのは、僕の体が、それを覚えていたからなんだろう。

Bkmする
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