俺様キューピッド
俺様キューピッド

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翌日の朝は前日よりも少し肌寒く、それで秋本番を迎えたことを知った。
夕方までの数時間に岳先輩から連絡はなくて、先輩が帰って来たのかどうかはわからない。

いつもなら朝一番に『おはよう』のメールをくれるのに、今日は朝から一度も携帯電話は鳴ってはいない。
僕からメールをすればいいんだろうけど、心の中にまだ小さな蟠(わだかま)りがあって、それは僕にはできそうもなかった。

夕方までは生徒会の仕事を少しだけ熟して、残りの時間は花壇で過ごした。
秋の草花に埋もれた僕の小さな庭は、不安な気持ちを癒してくれる。

可憐に咲き誇る薄桃色のコスモスに隠れるように、ひっそりと咲く黄色で真ん丸の可愛いダリア。
一番大事に育ててきたのに、最近、少しだけ元気がないのが気にかかる。

「うーん。栄養(肥料)はたっぷりあげてるんだけどな……」

愛情だってそうだ。
どの花よりも愛情も手間隙(てまひま)も惜しまずにかけて、大切に大切に育ててきた。

ポンポンダリアの花は、その大振りな見た目とは違って繊細な花で、育て方もかなり難しい。
だいぶ秋も深まってきたし、そろそろ花の時期も終わるから、それまでは可愛い花を咲かせてあげたいのに。

秋が深まってくるたびに用務員の村田さんに手伝ってもらって、何回か全ての花の植え替えもした。
季節の移り変わりを感じられるように、その時期に旬の花をメインに持ってきて。

プロの庭師の人がコーディネートしている中庭の薔薇の庭園(ローズガーデン)には敵わないけれど、僕ができるだけの努力もした。

薔薇の庭園とは違って、誰かが足を止めて花を愛でるでもない。
それでも視界の端にひょっこり入った時に、自然とその風景に馴染めばいい。


なんて言うのか、僕もこの花壇みたいになればいいのかな。
言ってみれば薔薇の庭園が主役だとすれば、僕の花壇は脇役だ。

だけどこの小さな庭があるからこそ薔薇の庭園が引き立つし、僕の庭がなければなんとも味気ない。
だから僕は岳先輩にとっての薔薇の庭園になれなくても、心の隅っこにでもいいからしっかりと存在している花壇でありたい。


夕方、夕暮れ間近の時間に学生寮の部屋を出て、待ち合わせ場所の石段に向かった。
姉ちゃんも大学進学で上京してるけど、暮らしているののは都心に近い場所だから、普段からあまり会うことはない。

Bkmする
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