俺様キューピッド
俺様キューピッド
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姉ちゃんと岳先輩が寄り添って笑っているページを開いたままで、僕は腰掛けたベッドの上で動けずにいた。
美人の姉ちゃんと岳先輩が寄り添うその様子はすごく自然で、現実を思い知らされたような気がした。
先輩と僕は恋人同士でも偽者の恋人同士で、先輩の優しさも恋人に対するそれとは違うのに。
先輩は恋人じゃなくって僕のキューピッドで、僕と龍平をくっつけたがっているのに。
そんなキューピッドはもういらない。
龍平への想いは恋愛じゃないことに気付いてしまったのに。
龍平よりも岳先輩のことで胸がいっぱいで、先輩のことを考えるだけで、胸はこんなにもきゅんきゅん痛むのに。
先輩の隣にいられるのは、姉ちゃんみたいな女の子だけだ。
そんな当たり前のことも忘れてしまっていた。
先輩が優しいからっていい気になって、先輩が僕のことを恋愛の意味で好きになってくれるわけがないのに。
悲しくて、苦しくて涙が出そうだ。
慌てて眼鏡を外して上を向く。
いつものようにこう思う。
可愛くない僕が泣いたってキモいだけだし、笑ってる方がまだマシだ。
その時、不意に携帯電話が鳴った。
時刻は夜の10時を少し回った頃で、一瞬、先輩からの電話かと思ったんだけど。
聞こえてきた音はメールの着信音で、おもむろに携帯電話を手に取って、メールの受信フォルダを開く。
メールの送り主は姉ちゃんだった。
姉ちゃんとは特に仲が悪いわけではないけど、普段は、あまりメールや電話のやり取りはしない。
だからか、岳先輩のことが脳裏に浮かんだ。
岳先輩と話をして、僕の話題でも出たのかな、なんて。
ドキドキしながら小さな液晶画面を覗き込むと、普段は飾らないクールな姉ちゃんにしては珍しく、可愛い絵文字やイラストでデコレーションされた文字が踊っていた。
内容を要約すると、明日の夕方、こっちに来るから会わないかと言うお誘いだった。
学園から出て少し歩いた場所に川があって、その土手で待ってるって。
場所は、学園から一番近い土手に上がる石段の下で、時間は夕暮れ時の少し前。
この時、僕は気付かなかった。
なんで姉ちゃんが石段の場所を知っているのかを。
学園の近くに土手があって、そこが田舎の土手に似てることは話してあった。
だから、その時に石段の話や他の場所の話もしたのかなって。
…ううん。違うな。
土手に上がるには石段を使うのが当たり前だからかな。
とにかく、明日の土曜日。
僕は久しぶりに姉ちゃんと会うことになった。
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