俺様キューピッド
俺様キューピッド
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キューピッドはもういらない
岳先輩と葉先輩がいない毎日が、こんなに淋しいものだとは思わなかった。
たった三日間だけなのに。冬季くんと冬夜くんはいつもと同じ、明るく笑っているのに。
いつの間にか僕は、すっかり生徒会執行部に馴染んでいた。
二人の存在が、そのことを痛感させる。
窓際にぽっかり空いた机が二つ。
今日も僕は、そちらに気を取られてしまう。
いつもは惑いなくキーボードを滑る指も、つっかえつっかえ、タイピングのリズムを崩した。
今日は先輩たちが撮影に入ってから三日目。
どんな様子か知りたくなって、
「あ」
不意に、あることに気がついた。
生徒会室の窓際の一番前。
西日が差し込む場所に僕の席はある。
なんでこんな簡単なことに気付かなかったのかな。
キーボードを叩く指が完全に止まる。
「なに。ハルっち?」
「…あ、ううん。なんでもない」
そう言えば先輩たちの撮影には、和佐姉ちゃんも参加してるんだった。
先輩達の様子を姉ちゃんに聞いてみたらいいんだ。
その後はきっちりと仕事を熟して、その日の夜、まずは先輩からメールが届いた。
多分、先輩は井上和佐が僕のお姉ちゃんだと気付いてるだろうけど、そのことにもモデルの仕事にも触れては来ない。
『明日には帰るよ』
何度かメールを交わした後、そのメールを最後に先輩からのメールは途絶えて、僕は手元にある雑誌を広げた。
学校からの帰り道。今日は花壇には寄らないで、コンビニに寄り道をした。
学園の生活スペースの敷地内にあるコンビニは、一般的な品揃えとはまた違った商品を置いてある。
参考書やちょっとした専門書はもちろん、文房具なんかも置いてあって、ファッション雑誌は当然、男性向けばかりだけど、先輩たちがモデルをしている『JUNE』を探してみる。
「あ、あった」
取り扱っている商品は生徒の要望も聞いてくれるから、きっと置いてあるって思ったんだ。
思った通りにマガジンラックに並んでいたそれを買って、今、それを広げている。
先輩の私服姿は何回か見たことがあるけど、雑誌の中の先輩は全く別人だった。
とにかくかっこよくて、思わず溜め息が漏れる。
と、同時に葉先輩の言葉をまた思い出す。
こんなにかっこいい先輩の隣に、やっぱり僕は、いちゃいけない。
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