俺様キューピッド
俺様キューピッド

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子供みたいに虐めたんじゃなく、あの頃の俺は本当に子供だった。
晴陽の気を引きたくて意地悪をして、泣いたら思い切り優しく宥めた。

可愛い顔をくしゃりと歪めて泣く、その泣き顔がとても好きだった。
今だからこそ言えることだが、その泣き顔を見たかったから、晴陽を泣かせていたのかも知れない。

まるまる一ヶ月と少しの夏休みをそこで過ごして、たくさんの思い出を作った。
その次の年もまた次の年も晴陽に会いに行きたかったけど、その年の暮れに両親が離婚して父親に引き取られた俺は、二度とその地を訪れることがなかった。


それから10年の年月が過ぎ、

『…ハルか?』

あの花壇で晴陽を見つけた。
俺は一目で晴陽だとわかったのに、晴陽は俺を完全に忘れていた。

それは和佐が言うように自業自得なんだろうけど、心が酷く痛んだ。
それに追い撃ちを掛けるように、晴陽は龍平……、登坂のことが好きだと言う。

その瞬間、脳裏に浮かんだのは晴陽の泣き顔だった。
健気に少し笑いながら話す晴陽が愛しくて、思わず抱き寄せた。


あの頃、晴陽を泣かせた帰り道。
小さな晴陽の手を引いて、田んぼ道を歩いた。

晴陽に再会した時、雷に怯(おび)える晴陽を抱き寄せた時、あの頃の記憶が鮮やかに蘇った。

なのに、晴陽は俺を全く覚えていなかった。
だから俺は自分を隠して、晴陽を幸せにしてやろうと思った。
それには、キューピッドに徹するしかなくて。


なんて女々しいんだろう、俺は。
ちょっとどころじゃなく自己嫌悪。

10年前の夏休み最後の日、その日も俺は晴陽を泣かせてしまった。
どんな意地悪をしたのかはもう忘れてしまったが、次の年の夏休みに会って謝ろうと思っていたのに、それは叶わなくて。

和佐の言う『仲直り』とは、そのことだ。
正確に言うと俺が一方的に晴陽を泣かせただけで、晴陽とは喧嘩さえしてはいないのだけれど。

だから、その罪滅ぼしとばかりに『意地悪ながっくん』は『頼れるキューピッド』へと身を変えた。
ただただ、晴陽を幸せにしてやりたいがために。

けれど最近、前みたいに晴陽が龍平のことを想っていないことに気がついた。
それと同時に、俺がたきつけたせいだかどうだかは不明だが、龍平が晴陽を見る目が変わったことにも。

つまり、少々、お節介すぎたキューピッドは、自分で自分の首を絞めたことになる。


そんなことを考えていた俺は、和佐が何やら行動を起こそうとしていたことに気付かなかった。


Bkmする
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