俺様キューピッド
俺様キューピッド

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和佐は鏡の前で前髪を弄りながら、俺の返事を待っている。

「晴陽から聞いたのか」
「うん。生徒会長が三鷹グループの御曹司だってね」

どうやら晴陽は、俺と付き合い始めたことは言ってないようで、俺も和佐にそのことは言わないでおいた。
まあ、普通に考えたら言えないか。


「場所、移そうか」

そう言った和佐に連れられるように、俺たちは控室を出て帰路に着いた。

和佐は四国からこちらの大学に進学して、ここから程近い場所に一人で暮らしている。
郊外の学園からはだいぶ離れた場所での撮影のため、俺は葉と二人でホテルの部屋をとった。

そのホテルまでの道を徒歩で辿りながら、和佐の話に耳を傾ける。

「で、晴陽。どうだった?」
「ああ。相変わらず可愛かったよ」

聞かれたからそう答えたら、

「そうじゃなくて」

和佐は小さく笑って、

「晴陽と仲直りできた?」

痛い所を突いてきた。



和佐と会ったのもあの夏、一度きりだけなのに、和佐は嫌なことを思い出させる。

「…俺が晴陽に嫌われてたのは知ってるだろ。俺と会ったことさえ忘れてたよ。ってか、気付かれなかった」

小学一年生の夏休み。
俺は母親が静養がてらに里帰りした四国に着いて行き、そこで晴陽や龍平、和佐と出会った。
初めての田舎の原風景は何もかもが興味深くて、それでもプライドが邪魔して冷めた態度しかとれなかった。

そんな中でもそれなりに仲良く遊んでいて、素直な晴陽も俺に懐いてくれていて、みんなのように『岳くん』と呼べない晴陽は、俺のことを『がっくん』と呼んで、最初は慕ってくれていた。
なのに、

「晴陽のことが好きだったくせに、子供みたいにいじめたりするからよ」

晴陽の中での『がっくん』は『意地悪ながっくん』で、そうなったのは自業自得だと和佐は笑った。


すっかり日も暮れた街にはイルミネーションの柔らかな明かりが点り、眠らない街は活気に溢れ、俺たちは街の雑踏に紛れる。
和佐はさすがにモデルだけあって、長身で脚も長くて綺麗だ。

晴陽といるとつむじが見えるが、和佐はそんなこともない。
和佐は晴陽よりも身長も高く、はた目には、俺たちはお似合いのカップルに見られているのだろう。


Bkmする
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