俺様キューピッド
俺様キューピッド
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「…え」
僕に声を掛けてきてくれた人を振り返り、僕はその場で固まってしまった。
凡人の僕には勿体なさすぎるほどに高貴なお方が、僕の背後に佇(たたず)んでいらっしゃったからだ。
その様子は佇んでいるというよりは、仁王立ちといった表現の方が近い。
噂通りの高身長で、威圧感もすごい。
ちびっ子の僕は彼から見事に見下ろされてしまった。
まあ、地べたにしゃがんでるから当たり前なんだけど。
「おまえ……」
「わ、わわっ。ごめんなさいっ。えと、実家から戻ったばかりで」
基本的に学校の敷地内は制服着用が義務付けられている。
なのに実家から戻ったばかりの僕はいま、くたくたのシャツとデニムの残念な私服姿。
それに対して目の前のお方は、ぱりっとした制服を華麗に着こなしていらっしゃる。
ネクタイとボタンを二個外しているのは、生徒会のお仕事が終わったからだろうか。
生徒会の仕事はとても忙しくて、夏休み返上だと聞いていた。
龍平もほんの一週間前にようやく自分の分を終わらせて、四国の実家に帰省したぐらいだ。
「…ハルか?」
「ほえ?」
目の前にいる雲上のお方から急に一部の人にしか知られていない愛称で呼ばれて、僕は思わずヘンな声を出してしまった。
目の前に仁王立ちするように君臨してらっしゃる崇高壮美で見目麗しいお方、三鷹岳先輩は恐れ多くも我が学園の生徒会長様であらせられる。
僕なんかの庶民が紹介させて頂こうと思えばこんな感じで、舌がもつれるし、思わずオーディエンスに向かって印籠を差し示したくなるくらいに雲の上のひとだ。
三鷹先輩は中等部からのエスカレーター組で、三鷹財閥改め、不動産やリゾートホテル、日本を代表するミタカ自動車も有する三鷹グループの創設者の末裔で現会長のご令孫にあたる。
現総理のご子息を始め、世襲制の政治家や医者の家系でそれらのエキスパートを目指す超エリートで成績優秀な生徒が多いなか、その中でも断トツの家柄を誇っている。
その家柄だけじゃなくて成績も断トツにトップで、生徒会長になるべくしておなりになったお方だ。
「俺を覚えてないか?」
「え、えっと……」
そんなすごいお方とどこかで知り合っていたら忘れるはずがない。
「三鷹先輩はうちの学園の生徒会長様であらせられれ……、あれ?」
案の定、あまりの緊張から舌がもつれてぐだぐだになった僕に一瞬眉根を寄せて、
「…チッ」
舌打ちすると次に仕方ないなとでも言いたげに、恐れ多くも僕の頭をぐしゃりとお撫でになられた。
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