俺様キューピッド
俺様キューピッド

[85/96]

『もしかして……』

その顔には、なんとなく見覚えがあった。
子供の頃から全く似てはいなかったが、

『…和佐?』

晴陽の姉貴の和佐(かずさ)だった。



和佐と初めて会ったのはもう10年も前の話で、よく俺のことを覚えていたものだと思う。
まあ、俺より3つ上の和佐は、当時は既に小学4年生で、幼稚園児だった晴陽とは状況が違うんだけど。

「岳。撮影終わった……、あ。和佐さん」

そこへ救世主。先に撮影を終えていた葉がこちらにやって来て、和佐の存在に気がついた。
葉も俺と同じくモデルをやっていて、一緒にいたところをスカウトされたいきさつがある。

「もう少し掛かりそうだけど待ってくれるか?」

その返事は葉からではなく、

「葉は先にホテルに帰ってて。ちょっと岳に話があるから」

和佐の口から返された。


なんと言うか穏やかでのんびりしている晴陽とは違い、和佐は何とも言えない迫力がある。

迫力……、じゃないな。
何て言えばいいんだろう。

ともかく、強い意志を持っていて、だからモデルとしても、人に影響を与えているんだろう。

普通一般的に考えて、女がこうであった場合は鼻持ちならないと思われて、男女関係なく反感を持たれやすい。
けれど、俺にとってはそれが反対に付き合いやすいと言うか、とっつきやすかった。

全ての撮影が終わって控室で着替えていると、

「岳、ちょっといい?」

和佐がそこにやってきた。
下着一枚の俺に何の反応も示さないのは、仕事で慣れているからだ。

俺は俺で女のモデルが下着姿でいても何も思わないし……、まあ。
俺の場合は、少なからず性癖も関係しているんだろうが。

「岳さ。晴陽と同じ学校なんだってね」

和佐はいつもの調子でそう言うと、鏡の前、俺の隣に陣取った。


モデルの仕事をしていくにあたり、俺は大半の素性を隠している。
公表しているプロフィールは『GAKU』の芸名だけで、これ以外は全て非公開にしていた。

その方が都合がよかったし、モデルをしている雑誌は女性向けのファッション誌で、うちの学園の生徒に見つかる確率も低い。


Bkmする
前へ | 次へ ]

85/114ページ
PageList | List | TopPage ]

Copyright © 2010 さよならルーレット Inc. All Rights Reserved.
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -