俺様キューピッド
俺様キューピッド

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※三鷹SIDE

なんとも不快な気分に油を注ぐのは、ある意味、こいつの特技だと思う。

「ねえってば。ちょっと、岳。聞いてんの?!」

メイクと着崩れを直してもらいながらも、和佐は唾を飛ばさんばかりに、ぎゃあぎゃあ文句を言ってくる。

「…はあ。ほんとに晴陽と姉弟かよ」
「ん?なんか言った?」
「いや、なんでもない」

可愛い晴陽の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいよ、ほんと。


どうやら和佐は俳優くずれの父親似らしく、血は繋がっていても母親似の晴陽とは、あまり似ていない。
ふとした時に晴陽と同じ表情(かお)を見せるから、その時だけはドキッとするけど、断然、俺の晴陽の方が可愛いげがある。
と言うか、可愛いと断言できる。

もう秋が深まってきてる今、俺たちが着ている服は春物の服だ。
真夏に冬物の撮影をするよりはマシだけど、少し肌寒い中での撮影は、なかなか辛いものがある。

ファッション雑誌『JUNE』専属と言っても一応は読者モデルという立場の俺と葉とは違い、モデルと大学生の二足の草鞋(わらじ)を履く和佐は毎月のように雑誌の撮影があるけど、読者モデルの俺らは季節ごとの撮影になる。

撮影のためには三日間、学校を休まねばならず、それだけが気になったが仕方がない。


俺がモデルを始めたきっかけはいわゆるスカウトで、まだ中学生の頃に、モデルにならないかと繁華街で声を掛けられた。
それから連日、足しげく自宅まで押しかけてきて説得されて、いい加減、欝陶しくなって読者モデルならと承諾したのが運のつきならぬ、不運のつき。
それからずるずる続けて今日に至る。

もともとうちの学園の校則はあってないようなもので、問題を起こさず、ある程度の成績をキープしていれば何も問題はない。
モデルの話も学園側も含める周知の事実だが、公休扱いしてくれるほどに理解されているし。

勉強すること自体は嫌いじゃないし、それが苦痛だと思ったこともない。
それでも、一応は勉強の息抜きのつもりでやってみたら、思い掛けず人気が出てしまい、気付けば足抜けできなくなっていた。



『GAKUって……。あんた、まさかガックン?!』

初めての撮影で、当時はまだ読者モデルだった和佐に再会した時、思い掛けずそんなことを言われた。
ガックンとは、まだ幼稚園児だった晴陽が俺を呼ぶ時に使っていたニックネームのようなもので、その『がっくん』を知っているということは、その当時のことを知る人物だということだ。


Bkmする
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