俺様キューピッド
俺様キューピッド
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誰とも付き合ったことがない、恋愛に疎(うと)い僕にもそれくらいのことはわかる。
自分の気持ちに気付いた今は、好奇心に近い複雑な気持ちからくる、知りたい気持ちなんだろう。
龍平と春川くんからすれば、僕が先輩の部屋に泊まると春川くんにメールした時は、同じ気持ちだったと思う。
ちらりと横目で見た二人は目が赤くて、それがどこか生々しさを感じさせ、僕は二人から視線を外した。
それからもそんな感じで時間は過ぎ、気付けば辺りは本格的に薄暗くなっていた。
いつもなら窓から差し込むオレンジの柔らかな陽射しもなく、ただ生徒会室、全体が薄闇に飲まれていく。
なんとか他のメンバーは揃ったけど、会長と副会長、二人がいなくなるだけでこんなに淋しいものなんだ。
いつものように高梨兄弟は雑談しているし、一見していつもと変わらないように見えるのに。
岳先輩と葉先輩、二つ並んだ空席を見遣って、こっそりと唇を噛んだ。
不意に思い出しちゃった。葉先輩に言われたこと。
『これ以上、岳を振り回さないで欲しいんだ』
先輩を振り回してるつもりはない。
けど、これって結果的に振り回してることになるのかな。
だからと言って、どうすれば振り回さないようにできるのかわかんないし、葉先輩が言ってた『岳を解放したげて』の意味もよくわからない。
岳先輩が好きだと自覚した以上、もう岳先輩との関わりを断つことはできないし。
補佐役でも偽者の恋人でもなんでもいいから、とにかく今は岳先輩のそばにいたいんだ。
そんなことをぐるぐると考えながら、僕はノートパソコンに向かった。
いつもは軽快な音も何度かつまづいて、時々、間違ったりもしながら。
どうしよう。どうしたらいいの。
いくら考えても答えは出ないんだけれど。
この日から僕たちは三日間、岳先輩と葉先輩のいない日々を過ごした。
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