俺様キューピッド
俺様キューピッド
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結局、運動オンチの僕は、あんなに走ったのに初めて遅刻をしてしまった。
慌てて教室に駆け込むと、クラスのみんなから注目を浴びる。
「す、すみませんっ。遅刻しましたっ!」
「おお、井上か。なんだ。珍しいな」
普段は真面目で初めてのことだからか、先生はそう言って笑っただけで、特に怒られることもなかった。
萎縮してこそこそ席に着く途中、満面の笑顔の春川くんと目が合った。
なんとなく気まずくて目を逸らしてしまったけど、擦れ違う瞬間に春川くんに『おめでとう』と言われた。
その時はなんのことだかわからなかったけど、僕が昨夜の二人について想像していたことを思い出すと顔が熱くなる。
表向きには僕と先輩は本当の恋人同士だから、きっとそういうことがあったと春川くんに思われたんだと思う。
ホントのところは何もなかったんだけど、そう思うととても残念と言うか……、って、なに言ってるんだろ。
「おい。井上、大丈夫か」
どうやら一人で百面相をしてしまっていたようで、隣の席の佐藤くんに心配されてしまった。
「え。あ、うん」
「おまえ真っ赤な顔してるぞ」
廊下を走ってたからってごまかしたけど、やっぱり僕、真っ赤な顔をしてたんだ。
なんだか恥ずかしい想像をしちゃって、穴があったら入りたい。
先輩のことが好きだって自覚してから、ずっと先輩のことが頭から離れなくて、先輩のことばかりを考えてる。
今頃は先輩も授業中かな。
何の授業を受けてるんだろ。
それより、先輩、遅刻しなかったかな。
僕が帰るのを見送ってくれたけど。
今まではずっと龍平のことばかり考えていたのに、今は先輩のことで頭がいっぱいで、昨日のことを思い出すたび、胸がドキドキして仕方ない。
これが本当の恋なんだと思う。
龍平を好きな気持ちとは、また少し違う気持ち。
陳腐な表現だけど、切ないような甘酸っぱいような。
結局、その日は一日、そんな風で、授業の内容はほとんど頭に入らなかった。
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