俺様キューピッド
俺様キューピッド

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誰にも見つからないようにエレベーターに乗り、共同棟を挟んだ一般棟へ戻る。
少しずつ人出が出てきてドキドキしたけど、特に誰にも呼び止められることなく自室に着いた。

「……はあっ」

部屋の前で思わず深呼吸。
時間はもうそろそろ登校するような時刻で、龍平はもう道場で竹刀を振っているだろう。

春川くんには昨日のうちに岳先輩の部屋に泊まるってメールしたし、心配もしてないだろうけど、一応、カードキーを使って部屋のロックを外す。
ドアを開けて入った部屋のどこにも春川くんはいなくて、シンと静まり返ったリビングが寒々しく見えた。

「…春川くんも道場かな」

結局、龍平は部屋に泊まっていったのかな。
偽物の僕と先輩とは違って二人は本物の恋人同士だし、そうなると泊まるの意味も違ってくる。

詳しくは知らないけど僕も一応は思春期の男だし、それなりの知識はある。
男同士ってなるともっとわからないことも増えるけど、ともかくそんな生々しい場面が一瞬、脳裏に浮かんで頭を振った。

恋人同士なんだから当たり前だ。
春川くんと龍平は本物の恋人同士なんだから。
…僕と先輩とは違って。

そう思ったら、何故だか胸が締め付けられた。


簡単な朝食をとり、顔を洗って歯も磨いて、登校準備をしてから部屋を出た。
遅刻しそうな予感に慌てて駆け出して、登校中の他のみんなの視線も気にせずに。

別に皆勤賞だとかそんなのは気にしてないけど、できるだけ学校は休みたくない。
学校に行けば先輩にも会えるし、生徒会の仕事もまだまだ片付いてないし。

ちょっと気まずい雰囲気になっちゃったけど、いつものように春川くんや龍平とも接しなきゃ。


なんでこんなことになっちゃったんだろ。
僕が好きなのは岳先輩だって気付いたのに。

龍平への思いを長いこと片思いだと勘違いしていたから、なんだかまだもやもやも消えないけど。
二人の前で笑えるかな。
二人を見ても冷静でいられるかな。

正直、龍平と春川くんが…って考えたらなんだか複雑だけど、恋人同士なんだから当たり前だ。
変な気を効かせてしまったから、これからは春川くんが龍平の部屋に泊まりに行くだろうけど、もしまた昨日みたいなことがあっても平気でいたい。

「わわ。ほんとに遅刻しちゃう」

廊下を走るスピードを上げた。
良い子のみんなは、真似しちゃだめだよ。

Bkmする
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