俺様キューピッド
俺様キューピッド
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多分、先輩は優しいから、制服がシワになったらいけないってパジャマに着替えさせてくれたんだ。
あいにくパジャマは一つしかないから、僕に上を譲ってくれて。
上半身裸の先輩に背後からぎゅっと抱きしめられて、さっきから心臓が口から飛び出そうなほどに騒いでる。
片思い以外の恋愛経験のない僕にだってわかる。
この状態は普通じゃない。
わかっているけど、先輩から離れたくなかった。
だから眠ったふりをして、体の力を抜いて先輩に預ける。
ああ、どうしよう。
僕、いつの間にこんなに先輩のことを好きになってたんだろ。
改めてそう考えたら、また泣きたくなった。
龍平が春川くんと夜を過ごしたことも、先輩のことで胸がいっぱいで思い出さないくらい。
不意に思い出しても二人のことはもうどうでもよくて、それより先輩と僕が一夜を過ごしたことが重要だ。
先輩が僕を手がかかる弟ぐらいにしか思ってないのも知ってるから、僕は気持ちを伝えられないけど。
なら、まだ龍平を好きなふりを続けたら先輩は恋人ごっこを続けてくれるかな……、なんていけないことまで考えてしまう。
だから、これからも先輩にはキューピッドでいてもらおうってそう決めた。
少しでも、そうやって協力してくれるだけでも先輩のそばにいたいから。
「……ん」
たぬき寝入りは続けたまま、寝ぼけたふりをして体勢を変えると、先輩の胸にぴとっとくっついた。
手に直接伝わる先輩の体温にドキドキして、わざと手の甲を先輩にくっつける。
先輩も起きてるのか、まだ寝てるのか、それとも僕のように寝たふりをしてるのかはわからないけれど、一瞬びくっと震えた後、僕を抱きしめている力がふっと緩んだ。
力が緩んだことで、体が自由に動かせる。
先輩の広い胸に頬を寄せ、耳をくっつければ聞こえてくる、いつもより少しだけ速い胸の鼓動。
先輩、ドキドキしてる。
僕と同じに。
結局、しばらくはそうしていて、遅刻すれすれの時間に先輩が起こしてくれて、僕は自分の部屋へ戻った。
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