俺様キューピッド
俺様キューピッド
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また忘れていた。
僕と先輩は身分が違うってことを。
先輩は世界有数の大企業の御曹司で、僕はしがない一庶民だ。
しかも僕の実家は農家だし、地元では山や土地をいくつか持つ、ある程度、名の知れた地主ではあるけど、岳先輩の家柄とは比べものにもならない。
「どうした。なんでも頼めよ」
そう言われたけど、どうしてもそんな気分にはなれなかった。
「食材でもストックしてあったらハルに用意してもらうんだがな」
そう笑って、ぽんって頭を撫でてくれても。
そもそも僕は、ぽっちゃりしてるけど基本的には少食で、食べる量はみんなより少ないくらいだ。
食べるよりは作る方が好きだし、成長期だから縦に来る分が、今は横に来てるんだと思う。
結局は、岳先輩がオムライスだとかハンバーグだとかの僕ら一般庶民でも食べているようなメニューをいくつか注文してくれたけど、緊張して味はよくわからなかった。
「ごちそうさまでした」
晩御飯を食べ終えたのは、夜の11時すぎ。
いつもならそろそろ就寝する頃で、軽い睡魔に襲われた。
「ハル。風呂、先に入るか」
先輩が僕を気遣ってそう言ってくれたけど、
「え、と。僕は後でいいです」
そう断りを入れて、居住まいを正した。
「そうか。ならくつろいでろな」
固まったままの僕を見て先輩は笑ったけど、龍平の部屋よりも更にすごい部屋でくつろげるはずがない。
「はあーっ」
先輩がバスルームに消えて、僕は固まった体の力を抜いた。
無意識に体中の筋肉が凝り固まっていたらしく、くたりとソファーに横たわる。
わ、何これ。
めちゃくちゃ触り心地がいい。
このままここで眠れそう。
けど、きっとかなり高いものなんだろうな。
よだれで汚したら大変だ。
なんて、ごろごろ寝転がりながら考えていたら、
「……ぐう」
睡魔に負けた僕は、本当にそのままそこで眠ってしまった。
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