俺様キューピッド
俺様キューピッド
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つまりは葉先輩の言うところの錯覚だってことを。
一番近くにいた人だから、その『好き』を恋愛の『好き』だって勘違いしていたことを。
いま龍平の一番近くにいるのは春川くんで、僕も龍平から離れる時を迎えた。
それは言ってみれば親離れみたいなもので、それを岳先輩が教えてくれた。
岳先輩……、なにしてるんだろ。
そんなことを思っていたら、先輩がマグカップを二つ持って戻ってきた。
先輩の姿を見てホッとする。
「ほら」
コトンと小さな音をたててテーブルに置かれたマグカップ。
「あ、ありがとうございます」
先輩のはコーヒーで、僕のはホットミルク。
ホットミルクにゆっくりと口をつけて、一息ついた。
え、えーと。
こんな時、何を喋ったらいいんだろ。
先輩、いつもはいろいろ話してくれるのに。
沈黙に耐え切れなくて顔を上げたら、優しい眼差しと目が合った。
「あ、えと」
「ん?」
お願いだからそんなにじっと見ないで欲しい。
先輩みたいなかっこいい人に見られてるからか、胸のドキドキが止まらない。
「僕の顔に何かついてますか?」
「いや。可愛いなと思って」
なんとか視線を逸らしてもらおうとしたのに、そんなことを言われてしまった。
「かっ、可愛いとかっ」
それは春川くんみたいな人に言うことだ。
僕は本当に普通だし、それどころかどちらかと言えば不細工な方だ。
バンビとかチワワと呼ばれてる人たちみたいな小動物系の可愛さもないし、それか、先輩は可愛い人たちを見慣れてるから毛色が違った僕が可愛く見えるのかな。
「あ」
そんなことを考えていたら、お腹がぐうと盛大に鳴った。
「…ふっ」
そんな僕に先輩は緩く笑って、
「何か食うか」
そう言うと、少し豪華な書籍のような表紙のメニュー表を僕の目の前に広げる。
「これって……」
「ん?」
もしかして、レストランのメニューなのかな。
庶民の僕らは利用したこともないエスカレーター組ご用達の。
それにしても、この時間だと営業時間外のはずだ。
もしかして、先輩は特別にルームサービスかなんかで届けてもらうんだろうか。
遠慮するなって言われたけど、先輩と僕との違いを見せつけられたようで、僕はその場で固まってしまった。
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