俺様キューピッド
俺様キューピッド
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龍平の部屋は一階下のフロアで、エレベーターでの移動の時に、少しだけ在否が気になった。
あれから龍平が追ってくることも追い抜かれることもなかったことを考えれば、僕の言葉通りに、龍平は僕らの部屋に泊まるつもりなんだろう。
そんなことを考えていたら、岳先輩が一番奥のドアの前で足を止めた。
繋いだ手と反対の手で器用にポケットからカードを取り出して、部屋の鍵を開ける。
「わ」
思わず先輩の背中にぶつかってしまって、小さな声を上げてしまった。
静まり返る廊下に思い掛けず声が響いて、思わず口をつぐむ。
何も言わない先輩に少し不安になるけど、繋いだ手だけは変わらず暖かい。
ドアを開ける時にその手が離されて、少し不安になる。
「どうした。入らないのか」
そしたら先に部屋に入った先輩にそう言われて、慌てて先輩の後を追った。
「わあ……」
適当にくつろげよと言われて入ったリビングは、思ったよりも広くて、思わず声を上げてしまった。
同じ特別棟の龍平の部屋と比べてみても、スイートルームとロイヤルスイートくらいの違いがある。
生活エリアにあるどの豪奢な造形物や施設よりも豪華で、お金持ちのにおいがぷんぷんして、こんな中でくつろげと言われても困ってしまう。
「…ふっ。借りてきた猫だな」
そんなことを言われても。
ぽかんと口を開けたままの僕を無理矢理ソファーに座らせると、岳先輩はどこかに消えてしまった。
こんな風に一人で取り残されると、途端に心細くなって、なんとも落ち着かなくて困ってしまう。
ソファーの座り心地も手触りもとても気持ちいいし、全体的に白で統一された家具やインテリアも本当ならとても落ち着くはずなのに。
岳先輩が消えた出入口をぼんやり眺めながら、そっと居住まいを正した。
少しだけ睡魔が襲ってきたから。
早起きが習慣になってしまった僕は、12時近くなるとどうしても眠くなる。
壁に掛けられたお洒落な時計を見ると、夜の10時を過ぎていた。
「あ」
不意にお腹がぐうと鳴って、晩御飯を食べていないことにも気がついた。
そう言えば葉先輩とお茶をして、お菓子を頂いただけで主食は食べてない。
今になって思うと、何を慌ててたんだろうって不思議に思うくらいのことなのに。
いつの間にか岳先輩の存在が龍平を上回って、龍平が大切な幼なじみだってことを教えてくれた。
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