俺様キューピッド
俺様キューピッド
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…そっか。当たり前だけど、僕が好きになった相手が僕を好きだという保証はどこにもないんだ。
しかも学校で一番の人気者の岳先輩が、僕のことを好きなわけがない。
告白なんかしても先輩を困らせるだけだし、身の程知らずもいいとこだ。
一歩前を行く先輩の背中を追いながら、一人で自問自答してしまった。
さっきまで岳先輩をとても身近に感じていたのに、ここに来て急に、とてつもなく遠くなる。
一言、聞けばいいことなのに、肯定されるのが怖くて聞けそうにない。
繋いだ手がうっすらと汗ばんで、こっそり振りほどこうとしたけど、しっかりと握られた手はほどけなくて、先輩の温もりが伝わってくる。
汗ばんでるのは僕の手で、それがとても恥ずかしかった。
だから離して欲しいのに、緩めた手をきつく握り直される。
いつの間にか足を踏み入れていた特別棟は廊下も広いし、調度品の全てが最高級のものだ。
以前、龍平の部屋に遊びに行った時に全く落ち着かなかったことを思い出した。
学園エリアは差ほど一般との区別もないけど、ここに来るとエスカレーター組との違いを思い知らされる。
一般庶民の僕がこんな所にいていいのかって、そんな気持ちになる。
「大丈夫か?」
始終無言だった先輩が急に、そんなことを聞いてきた。
何が大丈夫なのかがわからなくて、僕は返事ができなかった。
エレベーターに乗ったところで繋いだ手が離されて、その手が冷たい空気に冷やされる。
少し淋しい気もしたけど、火照った手に冷たい空気が心地よかった。
もう、夏場の暑さは全く感じない。
前回先輩とエレベーターに乗り込んだ時の状況とは全く違って、岳先輩はフロア移動を報せる電光掲示板の数字を目で追っている。
僕は先輩から少し離れた場所で、そんな先輩を感じながらも俯いたまま。
時間にして数分のその移動時間が、とても長い時間に感じた。
生徒会長の岳先輩の部屋は、最上階の特別棟でも特別の部屋だ。
エレベーターが最上階に着いて、
「あ」
また、先輩に手をしっかりと握られた。
繋いだ手はやっぱり少し湿っていたけど、繋がれたことがとても嬉しくて。
このままずっと繋いでいてくれたらいいのに。
このまま先輩の隣にいさせて欲しい。
そんなことを思いながら、前を行く先輩の背中を追う。
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