俺様キューピッド
俺様キューピッド

[70/96]

相変わらず困ったような顔をしてるけど、岳先輩はそう言って笑ってみせる。
僕は一瞬、何を言ってるのかがわからなくてボーッとしてしまった。

「…ほら。行くぞ」

次の瞬間、そう言って手を強く引かれる。
手を握られたまま腰が浮いて、中腰で先輩を見上げた。

いつもより無口だけど優しい先輩。
その先輩の耳の後ろから顔に掛けてが真っ赤になっていて、少し驚いた。

「…先輩?」
「自分の部屋に戻れないんだろ。なら、俺の部屋へ泊まるといい」

そのまま、こっちを見ないでそう言うと、僕の手を引いて歩き始める。



……あ、またデジャビュ。
このシーン。なんか懐かしいっていうか、前にもこんなことあったような。

岳先輩と二人でいると、たまに既視感でほわっと暖かくなる。
いつだったか子供の頃に、こうして先輩に手を引かれて歩いたような気がして。

「ね、先輩」
「なんだ」
「前にも……、こうやって僕、歩いたことある?」

何気なく聞いてみたら、先輩の足が止まった。

「…覚えてないのか?」
「あ、えっと……」
「まあそうだろうな」

そう言うと再び歩き始める。

「…昔、先輩と会った?」
「会ったな」
「そうなんだ……」

全く覚えてないことが悔しかった。
多分、本当に子供だった頃の出来事なんだろうけど。

「まあ、気にするな」

岳先輩はそう言って苦笑うと、特別棟へと足を向ける。


結局、僕らはいつ会ったのか、この既視感はいつのものなのかはわからなかった。
聞いてみたつもりが、軽く交わされちゃったし。

先輩の返事を解析してみると、僕らは子供の頃に会っていたことになる。
多分、その頃、一緒に遊んだりしたんだろう。

それから僕より一歳年上の先輩は、その頃、僕のことをまるで弟のようにかいがいしく面倒を見てくれて。


……あ。

そこで不意に気がついた。

もしかして僕……、岳先輩に弟のように思われてる?

だとしたら、先輩がキューピッドを買って出てくれたのも弟のためだってことになる。
普通、兄弟では恋愛なんかしないから、僕は恋愛対象としては対象外ということになる。

Bkmする
前へ | 次へ ]

70/114ページ
PageList | List | TopPage ]

Copyright © 2010 さよならルーレット Inc. All Rights Reserved.
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -