俺様キューピッド
俺様キューピッド
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えっと……。
多分、先輩は気付いちゃいない。
すごく遠回りになっちゃったけど、僕が勇気を振り絞って告白したことを。
「…いいよ」
先輩はいつもの少し淋しそうな顔で笑って、そう言ってくれた。
取りあえずは岳先輩って呼ぶことを許してもらったけど……。
それって、これからも恋人同士のように岳先輩って名前で呼ばせて欲しいってことなんだけどな。
つまりは龍平とのことがなくても、恋人ごっこでもいいから、これからもそばにいさせて欲しいってことで……。
…うん。我ながら回りくどすぎちゃったかも知れない。
「さて、どうする。そろそろ部屋に戻るか」
沈黙がしばらく続いた後に先輩はそう言って、重い腰を上げた。
「…あ」
「ん?」
送って行くと引かれた手をぎゅっと握り返して、先輩の顔をベンチに座ったまま下から見上げる。
「あの、龍平が僕らの部屋に泊まって行くかも知れないから……」
「いや、あいつなら……」「邪魔はしたくないです」
先輩がまだ何か言ってる途中だったけど、その言葉を途中で遮った。
二人の邪魔をしたくないって言うか……、もっと一緒にいたいって言うか。
これも、遠回しにそう言ってることになるのかな。
多分、僕は真っ赤な顔をしてるだろうけど、先輩は気付いてない顔をしている。
やっぱり、はっきり言わなきゃわかんないかな。
先輩のことが好きだって。
僕自身がこの気持ちに気付いたのはついさっきで、まだ余裕も何もないんだけど。
だけど、このまま僕が龍平のことが好きだと思われたままは嫌だから。
突発的に行動を起こしてしまったけど、この後どうしたらいいのかがわからない。
「あ、えと……」
先輩の手を握ったまま慌てて視線を外したら、
「…じゃ、俺の部屋へ来ればいい」
頭上から、そんな先輩の声が降ってきた。
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