俺様キューピッド
俺様キューピッド

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耳に直接、岳先輩の胸の鼓動が届く。
先輩の胸にぎゅっと押し付けた頬が熱い。

「…ハル?」

岳先輩が戸惑ってる。
僕のことをハルと呼ぶ時は、僕をただの後輩として見ている時だ。

恋人のふりをしている時は本名の『晴陽』で僕のことを呼ぶし、声色もまるで違う。
晴陽の時は優しさの中に甘さがたくさん含まれているし。

「え、と。ごめんなさい。とにかく龍平のことはもういいんです」
「え?」
「僕のね。勘違いだったんです」

どう説明したらいいのかわからないけど、ちゃんと伝えなきゃ。
もし、龍平との仲を取り持つキューピッドの役を岳先輩が降りて仮初(そ)めの恋人同士でなくなっても、岳先輩とは生徒会室で会えるから。

一般寮を出たところで先輩が会いに来てくれて、共同スペースでもある玄関ホール脇のベンチに二人並んで座る。
先輩が買ってくれたいつもの紙パックの苺オレを膝の上に置いて、葉先輩とのやり取りを話した。



時間はもう夜の8時を過ぎた頃で、共同スペースに人はまばらで、ベンチは自販機の隅にあるから死角になっている。

「…そうか。そんなことが」
「はい」

途中、葉先輩が岳先輩を好きだったかも知れないところだけは省いて、全部聞いてもらった。

「でね。いつもそばにいた幼なじみの龍平が春川くんに取られたようで悲しかったことに気がついたんです」

たまに眉をひそめたり、僕の頭を撫でる手が止まったりするけど、

「あの時の僕、友達は龍平と春川くんの二人だけだったから」

先輩は最後まで、ちゃんと聞いてくれた。
龍平のことは恋愛対象としての好きではなくて、大切な幼なじみとしての好きだったこと、それから……、

「え、と。でね。恋愛の意味で好き、な人。他にいるみたいなんです」

岳先輩が好きだってことも。

ただし、それははっきりとは言えなかったけど。

そう言った瞬間、岳先輩の眉毛がぴくりと動いた。
僕の頭を撫でる手がゆっくりと離れていって、その手がぎゅっと握られる。

……あれ。
もしかして、伝わらなかった?

そうかと一言言いながら離れていく岳先輩のシャツの裾を掴んで、

「…あのっ!」
「ん?」
「こ、これからも岳先輩って呼んでいいですか?」

今の僕ができるだけの、精一杯の告白をした。

Bkmする
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