俺様キューピッド
俺様キューピッド

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…岳、先輩だ。

なんだか先輩の顔を見た途端、気が抜けてしまった。
涙がぽろぽろと堰(せき)を切ったように頬を伝って落ちてくる。

「ハル、どうした?!」

先輩は僕の肩の下らへんの両腕を僕の体を挟み込むようにしっかりと掴んで、焦った顔で下から僕の顔を覗き込んでくる。
普段は冷静沈着な先輩には見られない様子に本気で心配してくれていることがわかったけど、僕は顔を上げることができなかった。

気付いてしまったから。
龍平に失恋したと思い込んで泣いてた時に、俺が協力してやるって言ってくれた先輩のことを、いつの間にか好きになってしまっていたことに。

毎日の何気ないメールのやり取りやおやすみの電話に心癒されて、いつの間にか失恋したことなんかどうでもよくなっていた。
龍平と春川くんの二人を見ても羨ましいと思うだけで、最近は嫉妬もあまり感じていなかった。

「…葉か。葉がなんかしたのか」
「ち、ちが……っっ」

なんでここで葉先輩の名前が出て来るのかはわからないけど、僕は必死に葉先輩は相談に乗ってくれただけだって岳先輩に伝えた。
岳先輩以外に自分の秘密を教えてしまったわけだから、本当は言いたくなかったんだけど、

「…葉、先輩は。僕と、同じだから」
「なに?」
「葉、先輩と岳先輩。僕と龍平と同じような立場だからって、相談に乗ってくれ、たんだ」

なんとか詰まりながらそう言うと、

「……チッ」

先輩が小さく舌打ちを一つ。

「ちが……、先輩はちゃんと聞いて、くれて。それで、答えが出て」
「答え?」

そう聞かれたけど、その答えは答えられるはずがない。

「部屋に戻っ、たら、龍平がいて。二人がキスしてたから……」
「…だから部屋を出て来たのか」
「はい。でも……、ショックだったから、とかじゃなくて。単純に二人の邪魔だと思ったからで……」

ちょっとだけショックではあったけど、それが本心だ。
だけど岳先輩は、まだ僕が龍平のことを好きだと思っているんだろう。

「…そうか。辛かったな」

僕の頭を撫でながら、そんな的外れなことを言うから、

「…ちが……っっ!」

思わず、先輩の胸に飛び込んでしまった。

Bkmする
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