俺様キューピッド
俺様キューピッド
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え、えっと。
とにかく一度、自分のなかで整理してみよう。
まずは悩んでることを葉先輩に聞いてもらって、そしたら龍平のことは錯覚じゃないかって言われた。
考えてみれば確かにそんな感じで、よくよく考えてみれば龍平とキスとかデートをしたいと思ったことは一度もなかったんだよね。
もちろん、それ以上のことも。
龍平がそばにいるのが当たり前だったから、龍平が恋愛対象として好きだと勘違いした。
そんな龍平が僕から離れていくようで、それがただ淋しかったんだと思う。
葉先輩は岳先輩の幼なじみで、言ってみれば二人は僕と龍平のような関係だ。
葉先輩が岳先輩のことを想っていた時期があるって聞かされた時は胸が痛んだけど、それを自分に当てはめたら何故だか少しホッとした。
やっぱり僕は龍平を大切な幼なじみとして、春川くんに取られたように感じていたんだ。
そばにいるのが当たり前だから好きだと勘違いして……、ホント、葉先輩の言うとおりに。
それから……、
『岳のことは好き?』
そう言われたことを思い出したら、不意に胸が苦しくなった。
岳先輩は男としても先輩としても、一人の人間としても尊敬しているし、憧れてもいるし、そんな先輩を僕が嫌いなわけがない。
『恋愛の好きとそれ以外の好きの違いってわかる?』
葉先輩にそう聞かれた。
その答えはキスとかそれ以上をしたいのが恋愛の好きってことで、その気持ちがないのは恋愛の好きじゃないことになるというもの。
岳先輩の唇が僕の頬に触れた、つまり、岳先輩にキスされたあの時。
熱にうなされていたから自分の気持ちに自信はないけど、あの時、もっとして欲しい、もっと触って欲しいって思ったような気がする。
唇にして欲しいとも。
「あ」
どうしよう。きっとそうだ。
僕、岳先輩のことが……。
そう思ったのもつかの間、不意に葉先輩の言葉を思い出す。
『これ以上、岳を振り回さないで欲しいんだ』
岳先輩を開放してとも言われた。
僕、やっぱり岳先輩に迷惑を掛けていたんだろうか。
やっぱり、岳先輩の優しさに甘えちゃいけなかったんだろうか。
時間にして数分も経っていなかったと思う。
先輩が来るまで、ずっとそのことばかりをぐるぐる考えていた。
「晴陽!」
「岳、先輩……」
だからか、岳先輩の姿が目の前に見えた瞬間、いつの間にか目に浮かんでいた涙がぽろりと落ちた。
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