俺様キューピッド
俺様キューピッド
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二人と目が合った。
「あ」
ドアの音で僕に気付いたのか、慌てて離れる二人。
思わず踵を返してドアに手を掛けると、
「ちょ、晴陽!」
龍平に腕を強く引かれる。
「…え、えーと。僕、お邪魔みたいだね。僕は岳先輩の部屋に行くから、龍平は泊まって行きなよ」
無意識にそう言っていた。
二人と顔を合わせないまま。
二人は恋人同士なんだから、キスとかそれ以上をすることも当たり前だ。
そんな簡単なことに葉先輩のお陰で気付いちゃったかも。
「じ、じゃ、おやすみなさい」
「え、ハルっち?!」
「ちょ、待てよ!」
あまりのショックからか、いつもはびくともしない龍平に掴まれた腕を振り払い、一目散に部屋から飛び出した。
火事場の底力とばかりにいつもより速いスピードで駆け出して、エレベーターの中になだれ込む。
「晴…!」
寸でのところで開閉ボタンの『閉』を押した。
龍平と僕との間、目の前で閉まるドア。
壁にもたれて一息つくと体の力が抜けて、ずるずるとその場に座り込んだ。
気付いてしまった。
龍平に対しての好きの気持ち。
ポケットに入れていた携帯電話に手を伸ばして、初めて電話する短縮番号のボタンを押す。
いつもは、向こうから電話をくれるひと。
取り留めのないメールを交わして、忙しくても、二人きりで会えなくても、お互いにしっかり繋がってるひと。
それが恋人ごっこという契約のもとにであっても。
エレベーターから降りて、ワンコールで電話は繋がった。
『もしもし、ハルか?』
耳に届く声は、いつものように優しくて、
「…岳、先輩」
僕の声は、少し上擦って震えた。
…あ、僕。
無意識に電話しちゃってた。
岳先輩のところに行くと言ったのは、その場を取り繕うための出任せだったのに、なんでかな。
この場合、岳先輩より葉先輩に電話するのが適切だと思うのに。
『晴陽、どうした?』
あ。先輩、僕のことをいつもの『ハル』じゃなくって、名前で呼んだ。
「…岳先輩」
あ。そう言えば、僕もいつものように『会長』じゃなく、先輩の名前で呼んでるや。
『今どこだ』
「あ、えっと一般寮を出て……」
『…待ってろ。すぐに行く』
「え、せんぱ……」
……切れちゃった。
すぐ行くって、もしかして岳先輩、本当にこっちに来るんだろうか。
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