俺様キューピッド
俺様キューピッド
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※水月SIDE
「…思わず意地悪しちゃったな」
自分がしでかしたことに、少なからず自己嫌悪。
岳を振り回すなとか、意味不明なことを言ってしまった。
本当は相手を振り回しているのは岳の方で、ハルくんは岳に振り回されているだけなのに。
「…錯覚、か」
本当にそうならよかったのに。
ハルくんの話を聞く限りは、ハルくんが登坂くんを思う気持ちは恋心ではないような気がした。
だけど、僕が岳に抱(いだ)いていた気持ちは錯覚なんかじゃなかったのだから。
「もう、吹っ切れたと思ったんだけどなあ……」
だけど、そう上手くはいかなかったみたいだ。
岳が僕のことを単なる幼なじみとしか思ってないことぐらい、痛いぐらいにわかる。
一番そばにいた幼なじみだからこそ、岳が誰を想っているかも、悲しいことにわかってしまう。
それは岳も同じだったようで、僕が岳に対して邪まな想いを寄せ始めた頃から岳は僕のことを『葉』と名前で呼ばなくなった。
それはとても自然で周りに気付かれないぐらいだったけど、当事者としては胸が痛んだ。
岳は小学生の頃からずっとたった一人の子のことを想い続けていて、それが悔しくて意地悪してしまった。
ハルくんの話を聞く限りは、登坂くんに対する好きと岳に対する好きは明らかに違っていたのに。
学生寮は大きな門のところで分岐されていて、一般棟と特別棟へとレストランや食堂、娯楽施設なんかが入った共同棟を間に挟んで左右に分かれる。
特別棟へと足を向けながら、ずっと二人のことだけを考えていた。
きっと僕がこうやって意地悪したところで、二人が揺らぐことはないだろう。
岳の想いは中途半端じゃなくて本物で、いつかはハルくんの胸に届くだろうから。
だから、今だけは意地悪な僕を許して欲しい。
ごめん。ちょっとだけ嫉妬した。
余計なことも言ってしまったけど、あの忠告を聞いてハルくんは自分の気持ちに気付いたはずだ。
優しいハルくんの性格だけが少し気になったけれど、いずれ二人は上手く一つの鞘(さや)に収まるだろう。
「…もしもし、岳?」
携帯電話を取り出して、取りあえずは岳に電話した。
「…ごめんね。それだけ」
『は?おま、何言って……』
会話の途中で電話を切って、岳の隣の部屋でもある自室に戻る。
その夜。いつもより早くベッドに身を沈めるも、なかなか寝付けそうになかった。
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