俺様キューピッド
俺様キューピッド
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会長を振り回す?
…僕が?
僕は会長を振り回してるの?
葉先輩はそう言うと、申し訳なさそうに少し困ったような顔で笑った。
会長を、岳先輩を解放する?
それ以前に、僕は岳先輩を自分に縛り付けているんだろうか。
「ヘンなことを頼んでごめんね。また悩ましちゃったかな」
「あっ……、いえ」
「…すっかり冷めちゃったね。紅茶。もう一杯、淹れるね」
葉先輩の綺麗な指先が茶器を操るのをぼんやり眺めた。
かちゃりと小さな陶器同士がぶつかる音を立て、受け皿の上に新しく淹れ直されたミルクティーの入ったカップが置かれる。
立ち上る湯気をぼんやりと見やりながら考えてみる。
葉先輩の言ったことを最初から。
僕は本当に、恋愛の意味で龍平のことが好きだったんだろうか。
『晴陽。俺……』
『な、なに』
『…彼氏ってゆーか、恋人ができた』
龍平に失恋した夏休み最後の日。
自分の半身がもがれたような気がした。
今までいつもそばにいてくれた龍平が、大事な幼なじみが他の誰かに取られてしまう。
「…あ」
「ん?」
「あ、いえ。なんでもないです」
龍平を好きな気持ち。
もしかして……、そうなのかな。
答えが出そうな瞬間、ポケットに入れてあった携帯電話が震えた。
メール着信。
メールを開封するまでもなく、誰からのメールかすぐにわかる。
このメールの送り主は二人きりでなかなか会えない分、毎日決まった時間に取り留めのない内容のメールをくれる人。
結局はミルクティーを二杯、ご馳走になって、
「今日はごちそうさまでした」
「いえいえ。お粗末さまでした」
「おやすみなさい」
「うん。おやすみ。気をつけて帰ってね」
学生寮の前で葉先輩と別れた。
帰る道すがらもらったメールを確認すると、胸のドキドキが止まらなくなった。
(…このドキドキはどっちの好き?)
そう考えると胸が熱くなる。
わかっちゃったかも。二つの好きの気持ち。
そんなことを考えながら自室のドアを開けたら、
「あ」
玄関のドアの前で、龍平と春川くんが抱き合ってキスをしていた。
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