俺様キューピッド
俺様キューピッド

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思ってること全部を口にして、紅茶を飲んで一息ついた。
両手で包み込むようにして持ったカップから湯気が立ち上って、それを見るとなぜだかホッとする。

ようやく秋本番になり、もう暑さは感じない。
ひんやりとした空気を肌で感じながら、怖ず怖ずと目の前の綺麗な人を上目使いに窺い見る。

瞬間、ふわりと優しく笑って、僕の方に伸ばした手で僕の頭を撫でてくれた。

「幼なじみ、か。難しいよね。子供の頃からずっと友達として一緒にいるってことは、それってつまりは好きだってことだもんね。嫌いなら一緒にいられないし…」

それから葉先輩も一息ついて、そう言うと口の端で曖昧に笑う。

「んーとね。僕と岳とが登坂くんとハルくんと同じ立場なんだけど」
「あ、そうでしたね」
「ぶっちゃけて言うと、さ。ハルくんと同じように悩んだ時期があったんだよね」

続けざまに思いがけないことを言われて、一瞬、胸の鼓動が止まったような気がした。



(――葉先輩が会長を?)

会長の隣に寄り添う葉先輩を思うと、ちびの僕がいるよりもぴったりに思えた。
その光景はまるで美しい一枚の絵画のようで、まさに絵画のようにしっくりくる。

「あ、誤解しないでね。今はなんとも思ってないし」

葉先輩は慌ててそう付け加えながら、言いにくそうに続けた。

「子供の頃からさ。ずっと一緒にいると、相手の悪いところも嫌なところも見えてくるよね」
「あ、はい」
「その嫌なところも引っくるめて側にいるとさ。その嫌なところも仕方ないなって、なんか可愛く見えてくるんだよね」

友達の中で一番そばにいるんだから当たり前だよねと続けて、葉先輩はゆっくりと冷めたカップに口をつけた。

「それが思春期……、そうだな。恋愛だとかを考える時期になった時に他に好きな子がいないと、幼なじみで一番そばにいるやつのことを恋愛対象として好きなんだって錯覚してしまうんだろうね」
「錯覚……、ですか」
「うん」

葉先輩が言ったことを真剣に考えてみる。
錯覚だとしたら、龍平の隣にいてドキドキしたことも、龍平に後ろからぎゅっとされて息が詰まりそうになったことも、全てが錯覚ってことになるのかな。

龍平の大きな手で腕を掴まれて走った廊下で、ただ走ってるだけにしては有り得ないほどにドキドキしていたことも。

Bkmする
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