俺様キューピッド
俺様キューピッド
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その表情はとても優しくて、おまけに綺麗で、
「なに?」
「あ、いえ。なんでもないです!」
思わず先輩の顔に見惚れていたら、反対に先輩に聞かれてしまった。
可愛いだなんて気軽に言わないで欲しい。しかも、そんなにもキラキラした綺麗な笑顔で。
葉先輩には敵わない。敵うわけがない。
「あ」
「ん、どうしたの?」
そんなことを考えていたら、不意にあることに気付いてしまった。
…どうしてこんな簡単なことに気付かなかったのかな。
「…葉先輩って岳先輩の幼なじみなんですよね」
「うん?どうしたの、急に」
いつだったか、葉先輩は幼なじみは特別だって言っていた。
もしかしたら……、
「岳先輩のことを、ですね」
「うん?」
僕にとっての龍平のように、葉先輩は岳先輩を特別に想ってたんじゃないのかな。
そう思ったのに、なぜだか続きは聞けなかった。
「…ねえ、ハルくん」
「あ、はい」
「もしかして……、登坂くんのことを好きだったんじゃない?」
反対にそう聞かれて、無意識に肩がぴくりと反応してしまう。
葉先輩の顔が見えない。
いま顔を上げたら全てを見透かされそうで。
そんな僕をどう思ったのか、
「そんなに身構えないで。大丈夫だから。それに……、過去形だよね?」
葉先輩はそう言って、静かにカップを受け皿の上に置いた。
カップに着いた口紅をハンカチで、そっと拭う仕種をしないのが不思議なぐらいの優雅さで、
(――カチャ)
陶器と陶器がぶつかる音がやけに耳につく。
「その……、岳先輩から聞いたんですか?」
「ううん。聞いてないよ。けど……」
岳が考えてることぐらいお見透しだからと笑いながら、
「よかったら相談に乗るよ?」
そう言ってくれた。
その声も表情もとても優しかったからか、僕は会長との恋人契約の話しを葉先輩に聞いてもらった。
葉先輩は時折カップに口をつけながら、頷(うなず)きだけで相槌を打つ。
子供の頃からずっと龍平のことが好きだったこと。
ひょんなことで会長と出会って、恋人契約を持ち掛けられたこと。
それから最近、ちょっと気持ちが揺らいでいることとか。
思わず、思ってること全部を話してしまった。
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