俺様キューピッド
俺様キューピッド
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「えっと……、村田さん?」
「ん?」
村田さんはいつもこんな風。
人より少しだけ、スキンシップが激しい人だ。
最初は僕もドキドキさせられたり戸惑いもしたけど、今ではすっかり慣れちゃった。
「…なんで眼鏡を外すの?」
それでもいつもより少しだけ近い距離にドキドキするのは、きっと村田さんがかっこいいからだと思う。
村田さんはパッと見は怖い顔をしてるんだけど、男の僕から見ても綺麗な顔をしている。
それは美人と言うよりは本当に『かっこいい』って表現がぴったりで、映画なんかに出て来そうな顔だ。
「邪魔だから」
村田さんはそう言って笑って、僕の鼻に自分の鼻を一瞬くっつけて、それからすぐに離れた。
胸のドキドキが止まらない。
一瞬、昨日の会長との、エレベーターの中でのやり取りを思い出した。
「うん。熱はねえな」
村田さんはそう言うと、そのまま僕の腋に手を入れて持ち上げて、
「ようやく咲き始めたか」
そんな訳がわからないことを言って、破顔一笑。
詳しく話を聞いてみたら、僕が生徒会の役職に就いたことを人づてに知ったみたいで、どうやらそのことを言ったようだった。
「咲く?」
「こないだまでの井上はさ。種を撒いて、蕾になった状態だったんだよ。その状態がちょっと長すぎたな」
そう説明されたけど、僕には全く意味がわからない。
「つまりは井上が頑張ってるのは井上をよく知るやつはみんな知ってるし、ようやくそれを知る者が増えだしたってことだよ」
付け足されたその一言に、ますます僕は首を傾げてしまった。
「それじゃ、お借りします」
「おお。手伝おうか?」
「ううん。大丈夫」
結局わけがわからないままだったけど、気を取り直して花壇に向かう。
「ハル。綺麗な花を咲かせろよ」
「うん。任せてよ」
そろそろコスモスも咲きそうだし、秋の花壇も最高なものにしなくちゃね。
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