俺様キューピッド
俺様キューピッド
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晴陽が悪いんだ。
会長のことは後ろに『先輩』をつけてだけど『岳先輩』って下の名前で呼ぶくせに、急に『登坂くん』だなんて他人行儀に俺のことを呼ぶから、思わずあんなことを言ってしまった。
今まで一度も、そんな風に俺を呼んだことはなかったのに。
「……くそっ!」
思わず吐き出した声は、竹刀の素振りの音に掻き消された。
いつも俺のそばにいたくせに。
この高校にだって、俺を追い掛けて受験したくせに。
晴陽が俺から離れて初めて、自分がそんな醜い感情を持っていることに気がついた。
当たり前にそばにいすぎて気付かなかった。晴陽の存在の大切さを。
その笑顔に、どんなに俺が癒されていたかも。
会長にはあんなに可愛い、少しはにかんだ笑顔を見せるくせに、俺には二学期が始まってから一度も心からの笑顔を向けて来ない。
いつもどこか蓮に遠慮しているようで……、まあ、それは当たり前なんだろうけど。
本当は、俺もそうしなきゃいけないんだろう。
晴陽は会長と付き合い始めて、会長のものなんだし、少しは遠慮する…ってか、晴陽は晴陽で、誰のものでもないけどさ。
そう思うと、またどうしようもなく苛立った。
その日の朝練はぐるぐるとそんなことばかりを考えてしまって、蓮がいつものように差し入れを持って来なかったことにも気付かなかった。
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