俺様キューピッド
俺様キューピッド
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※三鷹SIDE
晴陽をベッドに寝かしつけて来た道を戻る。
不意に、一時退室する理由も告げずに晴陽を生徒会室から連れ出したことを思い出し、自分の起こした行動に今更ながら驚いた。
『熱があるから保健室へ連れて行く』
その一言さえ言えなかった。
表向きは落ち着いて見えたかも知れないが、先生に『知恵熱のようなものだ』と言われるまでは、生きた心地がしなかった。
そう言われて安心してからは少し暴走してしまったような気もするが、ともかく晴陽が本格的な病気じゃなくてよかった。
晴陽の様子がおかしいことに気がついたのは、仕事を始めて10分ほど経った頃だった。
いつもより目に見えて頬が赤かった。
晴陽の頬は、もともといつも少し紅潮しているが、それにしては赤すぎだ。
他にも珍しく饒舌で、テンションも心なしか高い。
嫌な予感に晴陽の額に触れてみれば、驚くほどに熱くて思わずたじろいだ。
次の瞬間には、俺は晴陽の小さな体を抱き上げていた。
寮を出て、特別棟を目指して渡り廊下を歩きながらさっきの状況を思い返す。
あの状態は見る者によっては、生徒会長がご乱心したように見えたのではないかと思うと少し可笑しかった。
俺に対するそちら系の噂は、実は俺が絶倫だとかテクニシャンだとかの馬鹿げた噂だけで、誰それを部屋に連れ込んだだのの浮ついた類(たぐ)いの噂はないから。
ただ、仮にも恋人である晴陽をあの時間に抱き上げてのあの状態は、見る者に誤解を与えるには十分だったろうと思うと笑ってしまう。
しかも、保健室に連れて行くまでの俺は、余裕も何もなかっただろうから。
「あれ。かいちょ、おかえりー」
「早かったね。もう終わったの?」
案の定、生徒会室に戻ると双子にそう言われてしまった。
連れ出した理由を告げると、まずは春川が今すぐ自室に戻ると騒ぎだす。
それぞれにそれぞれが心配しているなか、登坂の態度だけが少し違った。
双子の台詞に肩をぴくりと反応させていたくせに、理由を聞いた途端、心から安心したような表情を浮かべる。
春川に付き添うように足早に部屋から出て行ったが、目的は言う必要もないだろう。
早速、突き刺した釘の効果が出て来たことにほくそ笑むも、どこかで後悔している自分もいる。
晴陽の幸せが一つ増えるたび、俺の幸せは一つ減っていく。
これが比例されれば言うことはないが、これが恋のキューピッドとしての定めなんだろう。
それにしても晴陽、相変わらず熱を出しやすいんだな。
これからは十分気をつけてやらないと。
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