俺様キューピッド
俺様キューピッド
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ちゅって可愛い音がした。
耳慣れないその音に、一瞬何が起こったのかわからなくて、
「え、え」
なんだかまた熱が上がっちゃったのか、とにかくその場所が燃えそうに熱い。
柔らかいなと笑った会長は次の瞬間、とても真剣な顔をして、
「唇はもっと柔らかいんだろうな」
そう言って僕の顔を見つめた。
…頬にキス、されちゃった。
それから、この状態はもしかして……。
僕、本物のキスされちゃうのかな。
だって嘘っこだけど、僕は一応、会長の恋人だし。
思わずぎゅって、目をつぶった。
近付いてくる会長の綺麗な顔を見るのが耐え切れなくて……。
なんてドキドキしていたら、
「ふみっ?!」
会長は僕の両頬をぎゅっとつまんで、むにっと両側に引っ張った。
「かいちょ、いらい……、地味にいらいれふ」
「…ぶっ。相変わらずよく伸びるな」
あうあう。
会長がなんで僕の頬っぺたがよく伸びることを知っているのかは置いといて、その行動に気が抜けてしまう。
ぺたりと地面に座り込んだ僕に、大丈夫かと会長が声をかけてきたところでエレベーターの扉が開いた。
え、と。移動時間が長すぎることは気にしない方向で。
「ほら」
再び姫抱っこされてエレベーターから出たところで地面に下ろされて、会長は、僕に背中を見せて足元にしゃがんだ。
さっきよりドキドキしてるから、精一杯腕を突っ張って会長の背中との間に隙間を作る。
会長の背中にぴったりくっついたら、きっと胸のドキドキが聞こえてしまうから。
「…唇へのキスは本物の恋人同士になったらな」
そしたら会長が急に、そんなことを言うから、また熱が上がってしまった気がした。
冗談だってわかってるのに、何故だかドキドキが止まらない。
それから部屋まではお互いにずっと無言で、会長は姫抱っこでベッドに寝かせてくれた。
「着替えとかここに置いとくから」
起きたら着替えろよと続けて、
「取りあえず寝な」
いつものように、僕の頭を優しく撫でてくれる会長。
その手がいつもより暖かかったからか、すぐに睡魔に襲われる。
そうしたらまた、頬の辺りでさっきの可愛い音がして、その感触がさっきよりも暖かく、夢と現(うつつ)の狭間に落とされる。
眠りに落ちる瞬間、なぜだか唇に、その感触を感じたような気がした。
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