俺様キューピッド
俺様キューピッド
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え……、あ。なに?
いきなりの会長の行動に軽くパニックを起こしそうだ。
これ、軽くおでこに触れられた次に来る行動じゃないよね。
いわゆるお姫様だっこの体勢で会長に抱き上げられたと思ったら、
「すまん。すぐ戻る」
みんなにそう一声かけて、会長は片手で器用に生徒会室のドアを開ける。
「か、会長。下ろしてください。僕、重い……」「いいから黙ってろ」
部屋を出る時、背後から『ごゆっくりー』なんてのんきに副会長が言ってるのが聞こえたけど、会長はその声に返事はしなかった。
半ば階段を駆け降りて、一階の保健室の前で足を停める。
そういえば今日は春原先生がまだいたなあ。
そんなことをぼんやり考えていたら、会長は『失礼します』と一声かけて目の前のドアを開けた。
「お。三鷹と井上か。どうした?」
春原先生はうちのOBで、この時間は学園に程近い病院にいることが多い。
先生がここにいるということは、今日は宿直がない日なのかな。
そんなことをのんびり考えてたら、
「実は熱があるようなんです。診てやってください」
会長は先生にそう言った。
「え」
「晴陽。具合が悪いならすぐに言え」
そう続けざまに言われたけど、
「…僕、体調が悪かったんですか?」
反対に聞き返してしまう。
「おまえなあ……」
だって気分が悪いとか吐き気がするとか、寒気がするとかもないし。
どちらかといえば内側から沸々(ふつふつ)と闘志がみなぎって来る感じがしてるぐらいで……、そう言ったらなぜか二人に呆れた顔で苦笑されちゃったけど。
「んー。多分、赤ん坊の知恵熱のようなものだろうね。ちょっと頑張り過ぎちゃったかな」
先生はそう言って机の上のペン立てから体温計を抜き取り、僕に手渡した。
それから数分後。
ピピッという機械音がして、熱を計り終えた体温計を先生に返すと、
「38度2分か。少し高いかな」
先生にそう言われた。
「え。そんなにあるんですか?」
それまでは全くなんともなかったのに、そう聞いた瞬間に頭がくらくらしてくるとか、我ながら単純だと思う。
「しばらくそこのベッドで寝ててもいいけど……、自分の部屋でゆっくり寝た方がいいか」
先生は、
「悪いけど井上をお願いするよ」
そう続けて薬を会長に手渡した。
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