俺様キューピッド
俺様キューピッド
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少しぽっちゃりしているからか、のんびり間延びしているように見られがちな晴陽。
お世辞にも可愛いとは言えない容姿から目立つことはないけど、誰にも見られないところで本領を発揮していて、実は入試も生徒会執行部メンバーに次いでの好成績だった。
そんな晴陽とは正反対に、不器用な蓮は何か一つでも自慢できることがあると、そんな自分を褒めてくれとばかり、素直に口にして甘えてくる。
そんな蓮が愛しくて、無条件で甘やかしていた俺を晴陽は、どんな気持ちで見ていたんだろう。
そう言えば昨日の生徒会からこちら、晴陽は俺のことを名字で呼ぶようになった。
単に生徒会という場所柄そうなんだと気にも留めなかったが、ひょっとして蓮に気兼ねしているんだろうか。
もしもそうなら、晴陽が俺のことを下の名前で呼ぶことはもうないような気がした。
『龍平』
思えば、子供の頃からそう呼ばれるのが当たり前だったのに、
『登坂くん』
そう、遠慮がちに俺のことを呼ぶ晴陽は俺の知っている晴陽じゃなかった。
「……くそっ」
手元のクッションを壁に投げ付け、天を仰いだ。
会長は結果的に、晴陽のことを考えるように仕向けると、
『俺の晴陽が蔑(ないがし)ろにされるのは我慢ならないからな』
とどめとばかりにぶっとい釘をぶっ刺し、俺の部屋から出て行った。
「言われなくても……」
晴陽のことは幼なじみの俺が一番知っている。
なのに、それが当たり前すぎて軽く受け流していた。
そう言えば晴陽のやつ。
俺のことは名字で呼ぶようになったくせに、
『岳先輩』
会長のことは名前で呼んでたな。
生徒会の仕事中はもちろん『会長』と役職名で呼んで、公私混同するようなことはなかったけど。
まあ二人は恋人同士なんだから、下の名前で呼び合うのは当たり前のことだ。俺と蓮もそうだし。
なのに、何故か苛立ったのは、俺と晴陽の幼なじみとしての付き合いの重さが関係しているんだろうか。
晴陽は俺の大切な幼なじみ。
会長にいろいろと考えさせられるまで、そんな当たり前のことにさえ気付かなかった。
当たり前すぎることって罪だ。
改めて晴陽のことを考えるたび、なぜだか胸がきしきしと軋む。
俺は重い溜め息を一つつき、重い腰を上げた。
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