俺様キューピッド
俺様キューピッド

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晴陽はのんびりした見た目のわりになんでもできてしまうから、それが当たり前だと思っていた。
昨日もお祝いにと用意してくれた豪勢な料理の大半が晴陽が作ってくれたものなのに、俺は不器用な蓮が用意してくれたと喜んで、蓮が作った見た目の悪いサラダばかりを褒めた。

『春川の絆創膏と同じ場所に、晴陽にも同じ絆創膏が貼ってあったのにも気付いてないんだろうな』

極めつけは会長のその一言。

『晴陽が怪我を?』
『晴陽も完璧に見えても人間だ。失敗もする』

俺が蓮の傷ばかりを気にしていたから、きっと晴陽は慌てて自分の傷を隠したんだろう。


そうだった。
晴陽はそんなやつだ。

他人(ひと)のことばかりを気にして、自分のことは後回しにして、ともすれば隠してしまおうとする。
いつだったか子供の頃に、自転車での走行中に友達を巻き込んで転んだ時も、自分の骨折を押し隠して、相手の怪我を見てやってくれと頑なに言い張った。


決してでしゃばることはせず、控えめな性格だったことを忘れていた。
そんな晴陽のことだ。
きっと蓮のことを気遣って、これからは何かと遠慮してくるようになるだろう。

「晴陽……」

そう言えば会長は、晴陽のことを『晴陽』と名前で呼んでいた。
今までは晴陽のことを下の名前で呼んでいたのは俺だけで、それは幼なじみの特権のようなものだったのに。

わかってはいるけど、会長は晴陽の彼氏なんだから……、そう思ったらなぜだか胸がちくりと痛んだ。


俺には蓮っていう可愛い恋人がいて、晴陽には頼もしくて優しい、完璧な男の会長がいる。
今回の会長が晴陽を補佐役に任命したことも晴陽を手元に置いて護るための処置で、そう考えると、これからは今までのような関係ではいられないだろう。

俺のそばから晴陽がいなくなる。

極端な言い方をすれば、そういうことだ。
俺のそばには蓮がいるのに、なぜだかそう思うと心底怖かった。

当たり前にそばにいた存在がいなくなる恐怖。
それは、身近にあったジグソーパズルのピースが一つ欠けるようなものだ。

その一つでは、見た目は大きな打撃を受けないが、それがなければそのパズルは永久に完成しない。


Bkmする
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