俺様キューピッド
俺様キューピッド
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それから恐れ多いことに先輩に部屋まで送ってもらって、
「それじゃ、おやすみ。明日からよろしくね」
「はいっ。おやすみなさい」
先輩が部屋から出て言った直後、
「はあーっ。緊張したあ」
どうやら張り詰めてた緊張の糸が切れたみたいで、僕はその場にぺったりと座り込んだ。
座り込んだ場所はフローリングの廊下で、ひんやりとした冷たさが心地いい。
はあ、と少しだけ仰向いて深呼吸をすれば、緊張で固まった気持ちもゆっくりと解れてくるような気がする。
春川くんが駆け寄って来ないところを見ると、多分龍平の所に行ってるんだろう。
一人の部屋はやけにがらんとしていて、なのに、
「…友達、できちゃった」
そう思うとちっとも淋しくはなかった。
正しくは友達とはまた違うのかも知れないけど、僕の携帯電話に新しく5件のメモリーが増えてしまった。
葉先輩と真田くん、板垣くんに高梨の冬夜くんと冬季くん。
今までは、こっちで友達と言える存在は幼なじみの龍平と部屋とクラスが同じ春川くんぐらいだったから、それがとても嬉しくて仕方ない。
上京して来て、まだ五ヶ月と少し。人見知りの激しい僕にしては、すごいことだと思う。
それもこれも会長のお陰だと思うと、ますます会長が好きになる。
あ、えっと。尊敬と憧れの意味で……、って。
何を自分に言い訳してるんだろ。
多分例え嘘っこだとしても、会長と恋人同士になっちゃったからだと思う。
会長の長所を一つ見つけるたびに好きになって、その好きを思うとドキドキが止まらない。
カモフラージュだってわかってるのに、会長は本当の恋人じゃないってわかってるのにね。
溜め息をつきながらなんとなく左手を見れば、人差し指に貼っていた絆創膏が剥がれそうになっていた。
土をいじってた時に剥がれたのかな。新しいのに貼り替えたら、つきりと指先が甘く疼く。
『怪我したのか?』
誰も気付いてくれなかったのに、会長だけはすぐに気付いてくれた。
それは周りに気を配る会長だからこそなんだろうけど、僕にはとても嬉しかった。
キッチンに向かって夕食の準備をしながら、僕はまたぐるぐる考える。
今日一日は本当に目まぐるしい一日で、僕の日常が一変してしまった。
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