俺様キューピッド
俺様キューピッド
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僕も好きでよく紅茶を飲むけど、副会長が淹れてくれたのは格別だった。
「…あ。おいし」
「そう?」
良かったと笑う副会長に美味しい紅茶の淹れ方を教えてもらいながら、僕らはいろんなお話をした。
「副会長って、岳先輩の幼なじみなんですよね」
「うん、そうだよ……、というかね。二人きりの時は名前で呼んでくれないかな」
「え」
「岳みたく」
「え、えと。水月先輩?」
「それでもいいけど……」
岳のように下の名前がいいなと副会長にしては珍しく悪戯っ子のように笑いながら言われて、
「よ、葉先輩?」
「うん。それがいい」
戸惑いながら名前で呼ぶと、どうやらそれは満足のいく答えだったようで、ふわりと頭を撫でられた。
「幼なじみって特別だよね」
会長のぐしゃりと髪を掻き混ぜる撫で方とは違って、優しいそれは水月先輩らしいと思う。
指に髪を絡ませるようにして軽く梳(す)いて、最後に名残惜しそうに離れた手がその場を柔らかく撫でてくる。
「…幼なじみって行動も似てくるんですかね」
「ん?」
「話してると、いつもそうやって」
「岳?」
「はい」
水月先輩は少し考えるように首を傾げて、
「んー、というかね」
「はい」
「なんかね。井上くんといると無条件に可愛がりたくなるからだと思うよ」
「無条件に……、ですか」
「ふふっ」
カップを静かに持ち上げて、ゆっくり口をつけながら水月先輩はそう言った。
無条件にって、どういうことなんだろう。
いくら考えても、僕にはその意味がわからなかった。
「ねえ、井上くん」
「あ、はい」
「二人きりの時は、ハルくんって呼んでいい?」
「え。あ、はい」
「そう。良かった」
それから、下の名前の方で呼びたがるその理由も。
ゆっくりとした時間の流れを久しぶりに満喫しながら、僕らは静かな時間を過ごした。
先輩が焼いてくれたワッフルをお茶受けに。
「今度、僕も何か焼いてきます」
「ハルくんが?」
「はい。クッキーとかマカロンなんかの簡単なものなら。その、迷惑じゃなければ」
「それは楽しみだな」
僕らはそれから、辺りが薄暗くなるまでお喋りの花を咲かせた。
先輩がぽろりと零した、
『幼なじみって特別だよね』
その言葉の意味に気付かないまま。
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