俺様キューピッド
俺様キューピッド
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※三鷹SIDE
(――ふふっ、晴陽。右手と右足が一緒に出てたな)
とうとうフィールドに降り立った可愛い恋人を思い出し緩く笑む。
「あ。やらし。思い出し笑い?」
それを水月に見咎められ、水月は薄く笑って、
「岳が笑うなんて珍しいね」
と、続けた。
「あの子が岳の大切なハルくんか。確か、あの夏休みのあの子だよね」
と、意味ありげに笑う水月は俺の幼なじみでもあり、晴陽のことを以前から知っている。
それはうっかり俺が口を滑らせたからで、もちろん直接会うのは今日が初めてだろうが。
始業式が終わった移動中、クラスメートでもある水月は俺の隣を歩く。
「けど生徒会に私情を挟むとか、副会長として言わせてもらえば甘心(かんしん)しないな」
そう水月がおどけたように笑って俺の肩に手を置いた瞬間、周りが俄(にわ)かにざわめいた。
水月は俺の幼なじみであり、クラスメートであり、それから我が校の生徒会の副会長でもある。
三鷹グループと勢力を二分する大企業の水月グループの次男坊で、俺の親友でもあり、家族ぐるみでも交流がある。
「まあ、春川くんよりは即戦力になりそうだけどね。カリスマ性には欠けるけど」
ざわめきに僅かに黄色い悲鳴が混じっていたのに苦笑いながらそう言う水月は、自分の容姿と無条件でモテることを快くは思っていない。
俺とは違って体の線が細いこととか色素の薄い肌色と髪色を気にしていて、王子とも称されるその甘いマスクも快くは思っていないようで、キャーキャー騒がれるのが気に食わないのか軽く眉間に皺を刻んだ。
緩くウェーブの掛かった髪は、風もないのにふわりと揺れる。
どちらかと言えば美少女ともとれる容姿は半分異国の血を引く母親譲りで、水月を産み落とした母親が妾腹だったこともあり快くは思えないのだろう。
物腰も柔らかく王子との愛称がぴったりな容姿をしているくせに、男らしくあろうとするところがこいつらしい。
あくまでも表向きの柔らかな笑顔は崩さないで、
「一学期末テストの成績はクラスでは断トツトップ、学年で20位だっけ。なかなか優秀だしね」
そう含み笑うと俺の胸ら辺を拳(こぶし)で軽く殴る真似をした。
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