俺様キューピッド
俺様キューピッド
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決して自虐的じゃなく、なんとなくそんなことを考えながら、僕は作業を続けた。
中庭のテラスにあるテーブルに着いて、紅茶を飲みながらこちらを見ていた人物には気付かずに。
桜の散り際ははらはらと儚くいつまでも余韻を残すけど、牡丹の散り際は、潔く花ごと地面に落下する。
僕もそんな牡丹のように潔く、すっぱりと龍平への想いを断ち切れたらいいのに。
「わ、いかん。もうこんな時間じゃ!」
あ、思わず方言が出ちゃった。
テラスにある飾り時計を見たら、もういい時間になっていた。
道具を片して手も洗って、教室に行く準備もしなきゃ。
慌てて作業を中止して、ガーデニング道具を片付けた。
用務員室に道具を返してお礼を言うと、1年B組の自分の教室へと急ぐ。
「わわわ、遅刻じゃ!」
自慢するわけじゃないけど、僕は一度も遅刻したことがない。
高校に入ってから学校も休んだことはないし、今のところは皆勤賞だ。
別に遅刻したからって罰則があるわけでも減点されるわけでもないけど、遅刻しないに越したことはない。
嫌な予感に思わず駆け出した。
(――とてとてとて)
……と、いっても運動オンチの僕のそれは、駆け足というより競歩?普通一般的な駆け足と呼ばれるそれには程遠かったりするんだけれど。
ただ有り難いことに校内だけは必要最低限にまとめてあって、移動に時間が掛かることはないんだよね。
駆け出すこと数分、
「…セーフ!」
なんとかぎりぎり間に合った。
…のは、いいんだけど。
なんだろ。
なんかいつもと違う気がする。
僕の思い違いじゃなきゃ、なんだかクラス中の注目を浴びてるような気が……。
はあはあと肩で息をしながら両膝に手を突き、うつむいて乱れる呼吸を整える。
「ハルっち!」
僕のことをこう呼ぶのは……、
ううん。
それ以前に、クラスメートでも僕に声をかけるのは春川くんくらいだ。
「今月の校内新聞が出てたから買ったんだけど、これ……」
そう言った春川くんからそれを受け取った。
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