俺様キューピッド
俺様キューピッド

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そう心の中で独りごちながらベッドサイドに手を伸ばし、愛用の眼鏡を掛ける。
すると周りの風景が鮮やかな色彩を帯びて、眩しさに目を細めた。

僕が朝起きて一番にすることはこれ。
とにかく眼鏡を掛けないと、全く何も見えないんだよね。
昔の春川くんみたく変装の道具だとかお洒落で掛けてるんじゃなくて、なくては生活できない大切なもの。

気だるい体をなんとか起こしてベッドから抜け出して、パジャマ代わりのTシャツとハーフパンツのまま寝癖を手櫛で直しながらキッチンへと向かう。

(――あ)

すると、キッチンに真剣な顔の春川くんが立っていた。
恐らくは龍平のお弁当を作っているんだろう。

「…あちっ!」

手際も悪いし、何度もそんなことがあってハラハラしたけど飛び出しては行けなかった。
キッチンに背中を向け、壁にもたれてその場にずるずるとしゃがみ込む。

(…そっか。ちゃんと手づくりのお弁当を渡してるんだ)

そう思ったらまた胸が痛かった。

だんだん僕の役目が減っていく。
僕の代わりに春川くんが……、というか、お弁当も僕が勝手にやってたことだったけど。


お弁当づくりと格闘すること十数分、

「いけない。もうこんな時間!」

小さく叫んで、春川くんは部屋を出て行った。
制服を着ていたし、学校へ行く準備もしていたからそのまま授業を受けるんだろう。

急いでいたからか、シンクの中に汚れた調理器具や食器を残したまま。
それを片付けながら、僕も自分の分だけの朝食とお弁当を用意した。
トーストとミルクだけの朝食をとり、昨日龍平のために作った料理の余り物を弁当箱に詰める。

歯を磨いて、顔を洗い、寝癖ばりばりの髪を梳(と)き、できる限りの寝癖を直してから自室へ戻る。
制服に着替えて身支度を整えて、いつもより少しだけのんびり部屋(うち)を出た。


いつものように自分一人で食べた朝食なのに、今日のはとても味気なかった。
龍平のために栄養バランスも考えながらメニューを考えるのはとても楽しくて、だから今までは一人の朝食でも美味しく感じてたんだろう。

僕の周りから少しずつ、龍平に関する日常が消えていく。
仕方ないことだけど、切なくて胸が痛くて泣きそうだ。

こんなこと一昨日までは全くなかったのに、今日だけで何回、胸が痛くなったっけ。

Bkmする
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