俺様キューピッド
俺様キューピッド
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「ごめん。遅くなっちゃった」
そう言いながらリビングへ行くと、会長が立ち上がってワゴンの上のものをテーブルに移すのを手伝ってくれた。
「お客様はいいから座ってて。ハルっち、僕が手伝うよ」
龍平とのお喋りに夢中だった春川くんが、手伝ってくれている会長に気付いて手伝ってくれるようになるまで。
いつものことだから気にしないようにはしてるけど、会長の方を見ると眉毛が少し中央に寄っていた。
後で聞いた話なんだけど、会長は春川くんのこの性格を知っていたらしくて、また悪い癖が出たかって眉根を寄せてしまったみたい。
思えば会長は周りの人をよく見ていて、その一人一人の性格や行動パターンの全てを把握していた。
まさに生徒会長になるべくしてなったお方で……、って、またヘンな敬語が出ちゃいそうになるほど尊敬できる人だ。
「晴陽、ここ。プリンついてる」
「かいちょ……、岳先輩。ありがとうございます」
そんな僕らがお互いに名前で呼び合っていたからか、龍平と春川くんは僕らが本当に付き合い始めたと確信したみたいだ。
会長は隣に座った僕の方へ手を伸ばして、頬についたプリンを取ってくれた。
それまでいちゃいちゃしていた二人は向かいの席で、ぽかんとほうけた顔を僕らの方に向けてくる。
会長はすごい。
演技力もこんなにあるんだと感心してしまう。
僕の方を見てくる会長の眼差しはとても優しくて、一瞬本当に愛されているのかもって、錯覚してしまった。
僕はといえば恋人ごっこなのに胸がドキドキしっぱなしで、もしも本当に恋人ができたらいったいどうなってしまうんだろう。
例えばその相手が龍平なら、まだ今までに積み重ねて来た日の数だけ普通でいられるんだろうけど。
例えばそれが会長だったりすると、何を話していいのかもわからないし、緊張の連続になりそうだ。
夜の10時を回る頃、
「それじゃ、おやすみ」
「おやすみなさい」
「また明日な」
緊張の連続ながら楽しいひと時を過ごして、会長と龍平は帰っていった。
「ハルっち、よかったね」
「え?」
「ハルっち。本当に会長に愛されてるんだ」
二人を見送ったあと、春川くんにそんなことを言われた。
改めてそんなことを言われると胸が痛む。
だって僕らは偽物の恋人同士で、僕は、今でも春川くんの恋人である龍平のことが好きなんだから。
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