俺様キューピッド
俺様キューピッド
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とにかくなんとか一学期を終え、特殊すぎる生活にもようやく慣れてきたというのに、この展開はちょっとくる。
今日、何度目かの涙を拭っていたら、来客を知らせるインターホンが鳴った。
失恋の痛手を引きずりながら、寮の部屋に戻ったのがお昼の2時過ぎ。
少し早めに夕食の準備を始めたからか、まだ夕方と呼ぶには早すぎる時間帯だ。
壁の時計を見たら、まだ5時を少し過ぎたところだった。
いつもなら放課後に寮に戻ってくる頃で、実は、まだお腹もあまり空いていなかったりする。
「ハルっちー。お客さん来たよー」
玄関の方から、少しはしゃいだような春川くんの声が聞こえる。
「はーい」
僕はなんとか涙を引っ込めて、玄関へと向かった。
「え」
(――なんで?)
僕らが招待したのは龍平だけだったはずだ。
「びっくりした?」
このサプライズ計画を企画した張本人だと思われる春川くんは嬉しそうに笑って、玄関先の二人は何故だか少し気まずそうに苦笑っている。
「土産だ」
「あ、ありがとうございます」
手渡されたのはケーキが入ってるあの小さな手提げのパッケージ。
そっと開けてみたら、小さな牛乳瓶の容器に入った美味しそうなプリンが二つ大事そうに収まっていた。
…これ。
多分、学内のレストランのデザートメニューのなかで大人気のなめらかプリンだ。
ものすごく美味しいって噂で、いつか食べてみたかった。
プリンって、実は僕の大好物なんだ。
二つということは、おそらくは僕と春川くんの分なんだろう。
「わあ、会長ありがとう!僕、これ大好きなんだ。ハルっち、後で食べようね」
というか、会長、なんで知ってたのかな。
僕がプリンが好きだってこと。
不思議に思ってぼんやりしていたら、春川くんが二人を中へ招き入れた。
まだ夕食には少し早すぎる時間だから、取りあえずは皆でリビングへ移動する。
「で、龍平のお土産は?」
「え、あ。いや……」
ダイニングでお茶の準備をしていると、楽しそうな声がここまで聞こえてきた。
どうしよう。早すぎる展開についていけないよ。
失恋の痛手もまだ癒えてないし、会長の恋人もどうやって演じていいのかわからない。
だって、僕、今までに恋人がいたことはないし。
デートだとかその他のこともしたことないし……、と、ここまで考えて不意に重大なことに気付いてしまった。
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